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レコード音楽を真空管増幅・バランス伝送で聴く

 最新の高性能なMCカートリッジでレコード盤から拾い上げた微弱な電気信号を、まず最初に昇圧トランスで、以後は真空管のみで増幅し(最終段のパワー管はWE300B)、しかもバランス伝送する、ちょっとマニアックな、こだわりのレコード音楽再生システムの実例を紹介します。見た目でも良い音がしそうなケーブルや装置の組み合わせです。もちろん、もっと上には上が、いくらでもあり、この世界の上限はキリがありません。
 昨年(2014年)ころから複数のメーカーがバランス伝送・増幅に力を入れるようになってきており、いよいよ『バランス伝送によるアナログ再生』の本格化へのスタートを切ったようで、今後この方式はかなり広まる予感がします。その入門用に、この拙稿が少しでもお役に立てば幸いです。
 『バランス(平衡)伝送』とは、一般に低電圧の電気信号を、ある程度の長い距離でもノイズフリーで伝送するための方法の一つであり、カートリッジやマイクなどの微弱な電気信号を、外来ノイズを排除・打ち消して、クリアな音で再生できるようにするためのものです。ちなみに私は、ずっと以前から生録で、そのようなマイクをよく使ってきました。バランス伝送について、もっと詳しく知りたい場合は、たとえば音楽の友社刊の最新の月刊誌『Stereo』2015年6月号56〜59ページを参照してください。この号の特集は、『ケーブル使いになろう!』です。一般的な普通のオーディオシステムでは、全てアンバランス(不平衡)伝送であり、RCAケーブルで各機器間が接続されておりますが、そのケーブルは、次に実例写真を示すような一芯シールド線で、中央の1本の線がhot(+)側で、周囲の網状のシールド線がcold(-)側であり、GND(アース)と共用になっています。この共用になっていることが、外来ノイズに弱い原因です。それに対して、バランス(平衡)伝送とは、放送局やレコーディングスタジオ、舞台などで必ず採用されている業務用・プロ用の電気信号伝送方式ですが、ハイアマチュアのオーディオマニアの間でも使われることがあります。これ用のケーブルは、次に示すような二芯シールド線が使われており、2本の等価な芯線(hotとcold)とそれを取り囲むように周囲にある網目状のシールド線(GND)があります。これにはケーブルのみでなく、装置側もバランス信号を受けて、それ用の処理ができる回路が必要です。


上段はアンバランス伝送用の一芯シールド線
下段はバランス伝送用の二芯シールド線


 特にMCカートリッジのような出力電圧が0.2mV程度と非常に低い場合のレコード再生においては、昇圧する前の最初の段階で使うと、ノイズの低減に効果が出ます。その場合、MCカートリッジ → 昇圧トランス → フォノイコライザー → プリアンプ → パワーアンプ → スピーカーという順に電気信号が流れますが、今回の実例では、最後のパワーアンプまでそのような接続をしております。それぞれの実物の例については、下の写真を参照してください。私は小学生のころに、エナメル線を巻いたクモの巣アンテナを含む鉱石ラジオを全て自作したのが最初で、それ以後トランジスタラジオやアンプ、真空管アンプなどを自作し、現在でも時々自作しており、大阪・日本橋の大きなパーツ屋で材料を買ってきて、バランスケーブルも、必要最短の市販されていない最適の長さのものなどを自作したりもしております。また、オーディオケーブルの収集も私の趣味の一つで、各種所有しておりますが、いかにも良い音がしそうな太くて素晴らしいデザインのものがほとんどで、見ているだけでも楽しいです。音とは無関係ですが、上級品は外側の編んだ被覆の布の模様までもが、とても美しい芸術品です。オーディオは趣味の世界ですし、ケーブル類や装置の見た目も非常に重要で、プラシーボ効果も多分にあります。良い音がすると思えばするんです! しかし、ケーブルさえ超高級なものにすれば、どんな装置でも本当に音がぐんと良くなるというものではありませんので注意してください。たかがケーブル、されどケーブルなんです。

自作のバランスケーブル (右側のRCAコネクタの内部もケーブルをバランス接合してあり
別途GND線を追加する。つまりシールド線をRCAコネクタのGNDに落としていない。)


見た目も素晴らしく、いかにも良い音がしそうな特別の上級オーディオケーブル
(写真を見やすくするためにL & R用に各計2本あるうちの1本のみを撮影)


 バランス伝送は、GND電位(1番ピン)に対してhot(2番ピン)とcold(3番ピン)の2信号をGND基準線と共に伝送し、受け側はそれを『差動アンプ』でバランス受信する方式です。これは現在の世界標準のヨーロッパ式のピン番号属性です。後ほど図示するように、受信側で2信号を引き算するので、伝送経路でケーブルに入り込むノイズや機器のシャーシ間電位差に起因するノイズも相殺され、ノイズレスの伝送が可能になるという素晴らしい方式です。従って、レコード再生の分野では特に低電圧出力であるMCカートリッジの電気信号の初段の伝送には効果が高いものです。
 バランス伝送機器は原則としてプロ用であり、一般のアマチュアには、あまり馴染みがないと思いますので、そのコネクタなどの特徴を次にまとめておきます。

★ケーブルの中央に等価な2芯線があり、その周囲を網状のシールド線で囲まれているために、バランス伝送ができるのでノイズが出にくい。これはレコード愛好家の我々には最大のメリット。
★このケーブルの線材にはOFC(Oxygen Free Cupper: 無酸素銅)、金(メッキを含む)、銀、貴金属合金など、特別の材質が使われているものも多くあり、それらは信じられないくらい非常に高価。
★ノイズに強いので、20mくらい延長したマイクケーブルでも問題ない。しかし、このようなケーブルの長さはアマチュアのレコードマニアにはあまり関係ないが。
★コネクタが頑丈で、接点の面積が広く、接触抵抗も低くて、大きな電流でも流せる。
★ソケットプラグにはロック機構が付いており、ケーブルを引っ張っても接続装置から抜けない安全システムがある。抜くときはロック解除ボタンを押さないと抜けない。
★メスのコネクタの1番ピンが内部で他のピンよりも少し長くなっており、接続時に機材同士の電位差を解消してから接続できるので、音量が上がっていても接続時のボコンというノイズが出ない。下手をすると、このノイズでスピーカーを壊すことがある。
★舞台などでの使用を考慮して、照明で光らないようにするために、金属外装のコネクタであれば、全て反射防止用の梨地加工がしてある。しかし、これは我々アマチュアには関係のないこと。
★電気信号が流れる電導部分は露出していない。これも安全対策の一つ。
★ケーブルの両端には、オスとメスのコネクタが各1個付いており、延長する時でもただケーブル同士をそのまま繋ぐだけでよい。しかし、RCAケーブルなら、通常は両端ともにオスのピンが付いており、延長するにはRCA中継アダプタ(メス・メス)を間に介さないといけない。
★以上の特徴の要点からもわかるが、頑丈で見るからに信頼性が高そうであり、さすがにプロ用のコネクタとして色んな点で実によく考えられており、明らかにアマチュア用とは一線を画している。
 上記のコネクタは、『キャノンコネクタ』『XLRコネクタ』と呼ばれています。XLRとはExtra Long Runの頭文字を取って命名されたものです。この『キャノン』という名称は、創業者のJames H. Cannon氏に由来しており、1915年にロサンゼルスで創業した会社です。現在の社名はITT-CANNONといいます。日本のカメラなどのメーカーで有名な『キヤノン』と似すぎていますが、注意深く比較してみると、日本のメーカーはキヤノンのヤの文字が小さくなく、さらに英語式の綴りは最初のCのみが大文字のCanonであり、ITT-CANNONよりも中央のNが一つ少ないという違いがあり、その由来は、観音菩薩 → KWANON → Canonとなったもので、創業は1933年ですが、Canonのロゴを使い始めたのは1935年のことですので、紛らわしい社名として、後発の日本のメーカーに少し問題があるように思います。余談ながら私は、デジタルカメラからはCanonの一眼レフをよく愛用しております。英語のcannonは大砲、canonは規範・基準という意味です。


左の写真: キャノンコネクタのリセプタクル(装置側)のオスとメス 
右の写真: キャノンコネクタのプラグのオスとメス (世界標準のピン番号も記入した)
     1番ピン:GND、 2番ピン:hot、 3番ピン:cold
これらのコネクタ類は、すべて自作用に購入して保存してあるもの。


カートリッジ

 レコードの溝の物理的信号を電気信号に変換する最初の段階で最も重要なものがカートリッジです。これによって音質は大きく変化します。繊細で高音域まで伸びた音が出るのがMCカートリッジで、クラシック音楽に向くとされております。MCとはMoving Coilの略であり、磁石の間に針と直結したコイルがあり、溝による針の振動によって起電力が発生します。コイルは多く巻くほど起電力は大きくなり、ノイズに対して有利になりますが、重くなるために機敏な動きができなくなり、繊細なトレース能力の高い動作ができなくなりますので、折衷案的な巻線量になっております。そのために起電力は0.2mV程度とかなり低いためにアンプに入力する前に昇圧しないといけません。それにはノイズの点で電源不要の昇圧トランスを使うのが一般的です。それに対して、Moving Magnet (MM)方式のカートリッジは、起電力が5mVくらいあり、その出力ならそのままアンプに入力できます。MMカートリッジは、一般にパンチのある骨太の音が出るので、ジャズやロックなどの迫力のある音楽に向くとされております。実際は、そんな単純なものではありませんが。

左の写真: 最新のMCカートリッジの例 (ボロンカンチレバーとダイアモンド・シバタ針付)  右の写真: 最新のMMカートリッジの例 (シェルと一体型で高いダンピング効果が得られる)


 カートリッジで重要なことは、いくら有名で高級なものであっても古い物は、たとえ未使用であってもダンパーなどが自然劣化し、再生音がボケてしまっており、音が良くないので使わない方がベターです。とにかく特に可動部分や経年劣化する部分がある精密機器のかなり古い物は何でもダメです。カートリッジは、とてもデリケートな精密機器ですので、音楽を聴くためには、いくら安くても中古品は買わない方がベターです。もっとも、本格的なオーディオマニアなら、中古のカートリッジを買って聴いている人はいないでしょうが。私のように話のタネに往年の名器のカーリッジはどんな内部構造なのか、分解して中身を見てみようというのなら別ですが。往年の名器もヤフオクなどに非常に安価で出品されていますが、程度の悪い中古のカートリッジの音を聴いて、『なーんだ、かの有名なカートリッジなのに大した音じゃないなあ!』なんて決して言わないでください。すでにそれはかなり古いので劣化していて往時の本来の素晴らしい音が出ていないのです。現在、その復刻改良版的なのが二、三種類市販されておりますので、どうしても聴きたければ、それで聴いてみることですが非常に高価なので、買ってちょっとだけ試しに聴いてみようとはいきません。古いカートリッジの再生音と現代のものと比べると、その大きな違いに驚きます。特に再生音のクリアさと分解能、周波数レンジなどにおいてかなりの差があります。やはり経年劣化と科学技術の進歩の結果でしょう。さらに適正針圧が4グラムくらいとかの非常に重いものは、針も俊敏に繊細な動きができませんし、大きな針圧のためにレコード盤の痛みも早くなりますので、最近は往時ほどの人気はありません。シェルと一体型になっており、昔の乗用車などのように丸みのある昔のデザインそのままです。ずっと以前から愛用しているシニア層には根強い人気がありますが、若者好みではないようです。最近のカートリッジは、デザインもシャープでモダンであり、低針圧で繊細な音がして、とても抜けがよくて、かなりの高音域まで伸びており、やはり素晴らしいです。これも時代の流れなんですねー。再生可能周波数帯域がなんと10Hz〜80,000Hzというカートリッジも現在市販されています。まさに現在のハイテク・カートリッジです。
 凝りだすとカートリッジをいくつも買って聴き比べをして楽しんだりもしますが、カートリッジとヘッドシェルをシェルリード線で正しく接続しないといけません。接続には多少の指先の器用さと力が必要です。シェルリード線の色と接続位置は、世界基準で次のように決められております。下記のカートリッジの左右上下の位置は、針が出ている部分を上・奥にして見た場合の方向です。すぐ下の実物の写真を参照してください。
   左チャンネル hot側  →  (カートリッジ手前側面右上)
   左チャンネル cold側 → 白 (カートリッジ手前側面右下)
   右チャンネル hot側  →  (カートリッジ手前側面左上)
   右チャンネル cold側 →  (カートリッジ手前側面左下)

 これらのリード線は両サイドに小さなコネクタが付いており、それをシェル(カートリッジを保持しトーンアームに固定するためのパーツ)の端子と接続します。しかし、コネクタがかなり小さくて固いので、抜き差しは少し大変です。

左の写真: MCカートリッジとシェルリード線の例 (リード線の色と位置は規格で全て同じ)
右の写真: シェルとシェルリード線の例 (リード線の色と位置は規格で全て同じ)


★シェルリード線の接続に関するご注意

 上記の一般則に合わないカートリッジもありますので、ご注意ください。たとえば、最近私が購入したアメリカ製の高級カートリッジがそうで、下に示すように、それに添付のマニュアルに記載の各信号の出力位置やケーブルの色分けが、通常の一般的なものとは異なっています。いずれにしろ、とにかく左右の信号線を正しく 結線しないとレコード盤に収録されている左右の音を正しく再生できませんのでご注意ください。真剣に聴いていないと、逆になっていても気付かないこともあるかと思いますが、音像の大きさや定位などにおいて正常ではありません。
 レコード盤に収録されている左右の音声信号が正しく左右のスピーカーから再生できているかどうかを簡単に調べるには、『オーディオ ・チェックレコード』を再生してみるのが一番です。次に実例を示すレコードでは、最初に左右が正しく再生されているかのチェック項目があり、『左チャンネル』というナレーションが3回繰り返され、次に『右チャンネル』も同様です。その結果、『左チャンネル』の声が左スピーカーから聞こえ、『右チャンネル』の声が右から聞こえて、しかも左右の音量がほぼ同じならば、左右の結線は正しいとなり、とても簡単にチェックができます。たとえ片側の線が接続されていなくても、反対側のスピーカーからも、かすかに音がもれて聞こえます。この現象を『クロストーク』と呼びます。このレコードには、再生装置の●左右接続の確認、●周波数特性テスト、●クロストークテスト、●位相や左右の音質のテストなど、計8項目が収録されています。類似のレコードは、他にもいくつかあります。
 とにかく左右の音が正しく再生されておればよいのであり、4色のどの色のシェルリード線をどこに使っても出る音とは無関係ですので、次に示されている色分けを無視しても構いませんが、少なくとも左右とGROUNDやHOTは、正しく結線しないといけません。


左の写真: 通常とは異なるカートリッジの出力ピンの位置と色 (最新のアメリカ製の高級
      カートリッジに添付されているマニュアルの一部分を接写したもの)
右の写真: 『PCM/45rpm レコードによるオーディオ・チェック』というタイトルのLPレコード
      のジャケット (新たにカートリッジを購入して結線した時のチェックに使っている)

 シェルリード線と両端のコネクター金具は、非常に高級なものでは、半田付けをすると音が悪くなるという理由で、半田付けではなくて単に圧着してあるだけのものがあり、何度も抜き差しを繰り返していると、その圧着部分がはずれることがあります。しかもその部分がビニールチューブでカバーされているので中が見えず、見た目では中の断線がわかりません。私も実際にこのようなことが原因で片チャンネルの音が全く出ないトラブルを体験しました。さらに、その抜き差しは、かなり固くて大変ですし、無理を重ねると半田付けのものでもその接合部分で断線する可能性のあるデリケートなものですので、何個か持っているカートリッジの音色の聴き比べをする場合は、シェルと一体のまま、そっくり交換することをお勧めします。この方法ならシェルリード線を痛めませんし、結線し直す手間も省けます。もっとも、シェルリード線は、一旦接続したら、その後頻繁に交換するようなものではありませんが。私の今までの経験では、上等のシェルリード線ほどコネクター部分が硬くて、無理して力を入れて抜き差しするので、接続部分に問題が発生することが多いように思います。



トーンアーム

 金属製のチューブでできているのが普通です。その中にカートリッジからの電気信号を伝送するためのリード線が4本(L,R用2組のバランス伝送用)入っていますが、そのリード線の太さは、誰でも実物を見たら腰を抜かすくらい細く、まるで髪の毛のような細さです。しかし、その直前のカートリッジ内の巻き線コイルの線は、もっとはるかに細いですが。GNDはトーンアームの付け根の下部にある専用端子からL,R共通として取り出します。

左の写真: トーンアーム内のリード線の実例 (こんなに細いリード線の中を音声の電気信号
      が流れていると思うと、窮屈そうでとてもかわいそう。『信号さん、もうすぐに太い
      ケーブルで楽にしてあげるので、ちょっとだけ我慢してね!』と言ってあげたい。)

右の写真: トーンアームからのバランス信号を受けて昇圧トランスへ伝送するための特別の
      バランス伝送用ケーブル (左側にRCAプラグが付いているが通常のRCA接続では
      なく、シールドのGND線はcold線と内部で結線されておらず、別途GND線で両機器
      間を接続する。このケーブルはかなり高価だが効果がある。これで信号も楽になる。)


 一般的なトーンアームからはRCAのメスのコネクタで出力されていますが、最近の上級機では5ピンのDINでバランス出力されているものがあります。アームの実効質量を可能な限り低減し、針先の俊敏な動きができるようにするために、音質よりも軽さ優先で極限まで細いリード線を使っているらしいです。それなら古くからある自重が非常に大きい某有名カートリッジも重量の点で問題ではないでしょうか。最近のカートリッジは、一般に自重も適正針圧も低くなってきています。正に知らぬが仏で、トーンアーム以降のケーブルばかり気にして、太い高価な高級RCAケーブルを使って安心している人が多いようですが、トーンアーム内のリード線は細すぎで、これこそレコード音楽再生では一番の問題点です。せめてもの救いは、トーンアームの金属パイプでそれら4本の極細のケーブルがシールドされていて、外来ノイズを排除していることです。とにかくレコード再生では、カートリッジからフォノイコライザー・プリアンプまでの初期のステップが音質に非常に大きく影響します。そして入り口に近いほど影響は大きいです。

左の写真: 個人的に一番好きなトーンアーム (デザインも最高でIndustrial Designの極致)

右の写真: 左のベルトドライブ方式ターンテーブルのモータープーリー部分の写真 (モーター
      の振動などをターンテーブルへ伝えないようにするための最良の方式。このレコード
      プレイヤーは最新の製品で、ターンテーブルやトップパネルの金属がかなり分厚くて
      全体が非常に重く、オーディオラックにセットする時にぎっくり腰になりかけたほど。
      トーンアームは自分の好きなものを買ってきてカスタマイズできる。)


昇圧トランス

 MCカートリッジの出力電圧は0.2mV程度と非常に低く、そのままではプリアンプに入力しても、スピーカーから小さな音しか出ませんので、まず最初に10倍以上に昇圧しないといけませんが、ノイズの点で真空管増幅はほとんど無理で、せいぜいソリッドステート(トランジスタやFET)を使うものてす。そしてノイズの点では昇圧トランスがソリッドステートより有利でしたが、最近ではトランジスタを数個並列使用することで、お互いのノイズを相殺する新しい回路がマーク・レビンソンらによって開発されましたので、昇圧トランスの優位性は薄れてきました。しかし、次の写真の実例のように最近の昇圧トランスも非常に良くなっており、上級機では入出力ともにバランス伝送用のリセプタクルが付いています。真空管マニアは、トランジスタだと『石臭い音!』と決め付けて毛嫌いする人が多いようで、とにかく避けるようです。真空管は、温もりのある音がするとよく言われますが、名実ともにそうで、300Bの真空管の発熱量は大したことありませんが、ハイパワー管の発熱量はすごくて、真夏には熱(暑)くて使っておれませんし、ついうっかり触るとヤケドします。しかし、冬は暖房器具にもなるというメリットがあります。さらにムードたっぷりの照明器具にもなるなど、真空管は多面的に本当に面白く素晴らしいものです。真空管にはまったら最後、もう底なしの泥沼の世界です!

2015年5月中旬に新発売されたばかりの最新の高性能昇圧トランスの背面
(入出力ともにバランス接続しており、中央はGND線)


フォノイコライザー

 レコード製造において、レコードの溝の幅をほぼ一定にしたいという製造上の問題から、音源の低域側を周波数に反比例してゲインを小さくし、高域側は周波数に比例してゲインを上げてレコードに記録します。これはRIAA特性と呼ばれている世界標準規格で、アメリカレコード協会 (Recording Industry Association of Americaの略称)で制定されたものです。このRIAA特性で記録されたレコード(ほとんどのLP盤)からの音声信号を、何もせずそのままアンプのライン入力に入れて増幅しますと、低音域が弱すぎ、さらに高音域が強調され過ぎて正常な音にはなりません。
 フォノイコライザーを経た電気信号は、以降はCD再生などと同様にプリ・パワーアンプを経てスピーカーから音として聴くことができるようになります。次の写真に示すパワーアンプ内では、整流(交流を直流に変換すること)も、真空管(整流管)で行っていますので、全て真空管で構成されています。そして最終段階のスピーカーは、伸び伸びとスケールの大きい、ゆったりとした低音が出ますので、やはり大型のフロア型が一番です。

左の写真: フォノイコライザー・アンプからパワーアンプへバランス伝送しているところ
右の写真: 真空管の王様Western Electric社製の300B(一番大きな2本の真空管)シングルに
      よるパワーアンプの真空管部分の写真(右端手前にあるフィラメントが赤い1本は
      整流管で、NATIONAL ELECTRONICS社製の5R4GYB) クラシック音楽には、
      この300Bがベストとされています。馬力よりもクオリティですから。


 ここで、MCカートリッジから昇圧トランスを経てフォノイコライザーアンプまでのバランス伝送の概念図をアンバラス伝送のものと比較して次に示します。この図は、フェーズメーション社が発表しているものを借用したものです。

 MCカートリッジから昇圧トランスを経てフォノイコライザーアンプまでの信号の流れの概念図
  上段の図: バランス(平衡)伝送の場合
  下段の図: アンバランス(不平衡)伝送の場合


 さらに、バランス伝送ではどのようにしてノイズがキャンセルできるかを示した概略図を次に示します。これは、音楽之友社刊のオーディオの総合月刊誌 Stereo の2015年6月号57ページに掲載されている図を借用したものです。この詳細については、その本の解説文などを参照してください。

バランス伝送における誘導ノイズキャンセルのメカニズムの概略図
(通常のアンバランス伝送ではこのようなことはできない)


真空管にとことんこだわって作られたレコードの例
(そのタイトルは “The Tube Only Violin”)

 実例として、真空管マニアのために、次の写真に示すような、最初の音源収録のコンデンサマイクに内蔵プリアンプからレコードカッティングまでの全段階に真空管を使って増幅して製作した180グラムの厚手の特製LPレコードがドイツの会社から市販されております。このようなレコードを音源として、上記のようなレコード再生システムで聴けば、最初のレコード製造から最終段階のパワーアンプまで完全100パーセント真空管による真空管マニアにはたまらないオール真空管の音楽再生システムとなります。このレコードの内容は、全てヴァイオリン演奏曲ですが、本稿のようなシステムのミュージックソースには最適です。

左の写真: そのレコードのジャケットの裏表紙(左半分)と表表紙(右半分)
      ジャケット表面(右半分)の右下に”Tube Only/TRANSISTERFREI”と
      プリントされているが、”TRANSISTERFREI”とはドイツ語でして、
      日本語に訳すと『トランジスタなし』という意味

右の写真: そのレコードのジャケットを開いた内側の左と右の面


そのレコード盤


本システムで上記のレコードを再生した時の再生周波数積算グラフ↓

 上記レコードA面の1曲目の『Peter I. Tchaikovsky: Melody op. 42 no.3』全曲をSpectrum Analyzerで解析した再生周波数積算グラフを次に示します。このグラフは、フォノイコライザーアンプからのライン出力を直接解析したものですので、レコード盤(一番問題)、カートリッジ、昇圧トランス、フォノイコライザーアンプ、それらを接続するケーブルの特性(全て2万ヘルツ以上を完全にクリア)を直接反映しておりますが、パワーアンプやスピーカーの特性とは全く無関係です。さらにこのようなパターンと、音の良し悪しとは必ずしも関係はありません。

45回転PCM録音の超高性能30cm LPレコードを再生した時の再生周波数積算グラフ
レコードをなめたらあかんよ! 次に示すレコードの性能は本当に凄いんだから!
 これはDENONのPCM RECORDING 45rpmシリーズの超高性能レコードの中の1曲で、『J.S.バッハのプレリュードとフーガ変ホ長調BWV552』を、クヌード・ヴァッドがデンマークのソーレー修道院で演奏したものを、ドイツの名門のSCHOEPSのマイクCMC-54Uで収録されたものです。このレコードを最新の高性能なレコード再生装置で聴きますと本当に素晴らしい音がして、DVD-AudioやBlue RayのDiscもハイレゾも必要ないように思います。
 通常の30cm LPレコードの回転数は33.3rpmですが、それを45rpmにしますとレコードの溝と針の接触する線速度がさらに上昇しますので、より高音域が伸びますし、ダイナミック・レンジもより広くなり、歪も少なくなります。78rpmにすれば、さらに良くなりますが、当然のことながら1枚のディスクに収録できる曲数は回転数に反比例して少なくなります。また、PCM(Pulse Code Modulation)録音方式とは、DENONがNHK技術研究所の協力を得て開発したもので、一口に言えば音楽の波形を周囲の影響を受けないパルス信号に変換して記録する方式で、雑音、歪、ゴースト、ワウ・フラッターなどの音に悪影響を与える要因を除去できる非常に素晴らしい方式です。
 以上のようにして、超高性能の装置や技術を駆使して製作された特別のレコードですので、やはり凄い性能で、素晴らしい音がします。次のグラフにもそれが表れています。レコードなのに(?!)、2万ヘルツ以上の音が余裕で入っていて再生できているのがわかります。


比較のために普通のLP中のオルガン曲を再生した時の再生周波数積算グラフ↓

 ダイナミックレンジと周波数レンジがかなり広いJ. S. Bach作曲の有名なオルガン曲の『トッカータとフーガ』(Toccata u. Fuge d-moll BWV565, Helmut Walcheのオルガン)のレコードの全曲の再生周波数積算グラフを次に示します。上記と同様にして解析した結果です。8千ヘルツ以上は、わずかですが出ているのがわかります。


【参考資料】 DVD-Audio Disc中のシンセサイザー曲の再生周波数積算グラフ
 冨田勲のシンセサイザー演奏による『ホルストの組曲・惑星』の中の「木星」全曲の再生周波数積算グラフを次に示します。これはDVD-Audioプレイヤーからのデジタル出力を直接解析した結果です。さすがにシンセサイザー曲のDVD-Audio Discです。2万ヘルツ以上の超高音まで出ており、やはり予想どおりに再生周波数帯域が非常に広いことがわかります。CDや普通のレコードでは、ここまでの高音は出ません。ただし、上記のような45rpm, PCM録音の特製レコードなら余裕で出ますが。


最後にオーディオの根幹に関わる重要なことを

 シンセサイザーなどの電子音楽であれば、マイクを一切通さずに電子的に元の電気信号のままダイレクトに収録できますので、たとえ何万ヘルツの音であろうと劣化させずにそのまま入力できて問題ありませんが、普通の音楽収録操作は全てマイクで音を拾うことから始まります。しかし、特に少し前までの普通に使われていた業務用のマイクは、安定性は抜群ですが、高域特性があまり良くなく、2万ヘルツ以上の超高音を可聴周波数領域と同様な音圧レベルで拾えるようなものはレアでした。そんなマイクで収録した音は、その後いかなる高級な装置を使っても、元々入っていない音は取り出せないのです。今後はマイクの性能がもっと良くなり、上記の問題は次第に改善されることでしょう。
 しかし最も致命的で改善のしようがない最大の問題点は、成人では2万ヘルツまでの高音域の音を聞き取れる人はいないということです。その上に、その可聴上限周波数は加齢とともに低下し、シニア層であれば、せいぜい16,000Hzくらいまでしか聞こえません。しかもヘッドホンやスピーカーに耳をくっ付けて聞き耳を立てて聞いた場合のことです。スピーカーから離れて通常のリスニングポジションで気楽に聞けば、高音になるほど指向性が強いので、実際には可聴上限周波数はもっと下がり、残念ながらシニア層なら1万ヘルツ程度までしか聞こえません。
 人の耳孔は左右真横向きになっているのに対して、スピーカーや生演奏の時の楽器などの音源は前方にあります。従って音の来る方向と耳孔の向きの両者はほぼ直角の関係にあり、高音になるほど音の指向性は強くなりますので、次第に高音が聴こえなくなります。ただし、耳孔を音源の方向に向ければ、もう少し高い音まで聴こえます。しかし、超高音まで再生できる最近流行りの超高性能なイヤホンやヘッドホンなら、音源と耳孔が至近距離で直線的な配置になりますので、スピーカーで聴くよりも、もっと高音がよく聴こえます。よって、本当に超高音が出ているハイレゾ音源であれば、少なくとも3万ヘルツくらいまでフラットに聴こえる高性能なイヤホンやヘッドホンで聴くのは一理ありますが、実際に測定してみると超高音はあまり出ていないようです。ちなみに私が研究用に使っているヘッドホンは、後にその写真を示しますが、5〜110,000Hzの再生が可能です。ただし、イヤホンやヘッドホンで聴く場合には、音場の各楽器の定位は、頭蓋骨の中で広がり、とても不自然なものになりますし、聴き続けていると難聴になりますので、私は研究以外には全く使いません。よって、超高音を再生するためのスピーカーであるスーパートゥイーターを追加する場合は、一般にやられているフロントスピーカーの上に置くのではなくて、自分の耳の真横の左右に置く方が、より高音まで聴こえて良いのです。参考までに、私が愛用しているスーパートゥイーターを次に示します。これの再生可能周波数範囲は9,000〜120,000Hzと、人には全く必要ないほど超超高音域まで出ます。ただしイルカに聞かせるためには、これくらいの高い周波数は必要ですので、水族館に置くとよいでしょう。イルカはなんと150,000Hzくらいまで聞こえますので、これでもまだ十分ではありませんが、このスーパートゥイーターの愛称は”Dolphin”です。ただし、通常はこれを真空管アンプではなくてソリッドステートアンプ(周波数特性:10〜100,000Hz, L/R出力200W+200W)に接続して聴いております。下記のサブウーファーシステムも同様です。

愛用のスーパートゥイーター (再生可能周波数範囲はなんと9,000〜120,000Hz!!)
(見やすくするために床の上に置いて撮影)


 こんな超超高音域の音源をどのようにして入手するかですが、研究用には次に示すようなFUNCTION GENERATORという発信器を使えば簡単です。写真の装置は愛用品で、なんと1Hzから2,000,000Hz(2MHz)までの超広範囲の任意の周波数を、ツマミ一つで色んな波形(サイン・ウエーブ、矩形波、ノコギリ波)を簡単に発生させることができます。これを使って2万ヘルツの音をスピーカーから出して聴こえるかどうかの実験をしておりましたが、自分の耳には聞こえないので、アンプのボリュームを次第に上げていき、ついには最大限に上げて、これでも聞こえないのかと、そのままで実験をのんびりとしていたら、ついにスピーカーから煙が出てきて、大切にしていた3ウエイ・スピーカーのヴォイスコイルを焼き切ってしまった苦い経験があります。


1Hzから2,000,000Hz(2MHz)まで発生可能なFUNCTION GENERATOR (左)と
5〜110,000Hzの再生が可能なヘッドホン (右)


 楽器の音域については、一般的な楽器の中で最も音域の広いのはピアノであり、88鍵のピアノであれば再低音はA0で27.5Hz、最高音はC8で4186.01Hzです。全楽器中で最も音域が広いパイプオルガンでも、一般的なものはC0(16.35Hz)〜G9(12543.85Hz)くらいの範囲です。ただしこれらは基音(fundamental tone)のことであり、各音のn倍の周波数の倍音(harmonic overtone)は、nが増すほどに大きく減衰するとはいえ同時に発生していて音色と深く関係しますので、音楽にとっては重要なものです。
 しかしながら、3〜4万ヘルツくらいまでも再生可能にしようと必死になってハードウエアに投資してもほとんど無駄です。医薬品と同様に、いやそれ以上にオーディオの世界にはプラシーボ効果がありますので、物事に批判的でない人や深く考えない人などには意味があるかと思います。まさに『信ずる者は救われる!』で、聞こえると思えば2万ヘルツ以上でも聞こえるのかも?これで、オーディオが宗教的になるのです。神でも自分の耳でも、何を信じようと各自の自由です。信教の自由は憲法で保障されておりますから、『オーディオ教』も然りです。
 単に収録周波数範囲や再生可能周波数範囲のみを問題にして、CDは2万ヘルツ以上の高音が完全にカットされているが、ハイレゾはもっとはるかに上の超高音域まで入っているので音が良いのだという説は正しくありません。(ただし、実測すると、そんなに入っていませんが。)音楽は、再生周波数のみで評価できるような単純なものではないのです。そのような超高音域よりも下限が15Hzくらいまでの低音が、ボンボコ音ではなくて、ゆったり伸び伸びと、朗々と鳴るスピーカーまでのトータルシステムのほうが、音の厚み、奥深さなどの表現で、はるかに重要であるというのが私の考え方です。パイプオルガンの再生音が、ヨーロッパの古い大きな教会で聴くようなスケールの大きな腹の底に響く本物のパイプオルガンのように聴こえるようにすることが目標です。トータルでは、特にドイツやオーストリアのが好きです。さらには、そこの聖歌隊の合唱も本物が前にいるように、涙が出るほど美しく聴こえることが目標です。合唱の声は本当に素晴らしいと思います。やはり人間の耳に最も親和性がある音楽ではないでしょうか。クリスマスの頃は毎年ニューヨークにおりますが、五番街にある全米で最大級のカトリック教会でステンドグラスが非常に美しいSt. Patric’s Cathedral (セント・パトリック大聖堂)のクリスマス・ミサは、観光客お断りで、入るときにチェックされますが、ニューヨーカーになりすまして、儀式のやり方がよく分かっていないのに時々参加しております。とにかく、この例のように教会音楽は最高で、本当に素晴らしいです。みなさんもぜひ生で聴いてみてください。
 音楽の厚みには高音〜超高音よりも低音〜超低音の方がずっと重要と言うのが私の説です。次に示すのは愛用のサブウーファーシステム(アンプ内蔵)で、再生可能周波数範囲が16〜160Hzの超低音の再生が可能であり、これでパイプオルガンなどの曲を聴くと、その重低音は耳で聴く音というよりも床から足の裏、さらに下腹へと伝わる鈍い揺れという感じで、まるで地震が来たかのような、もの凄い体感が得られます。これを最初に体験した時は、普通のスピーカーでは出ないその『地鳴り』に誰でもびっくりします。このサブウーファーシステムの追加の効果は抜群です。10Hzのオーダーの超低音になると、耳で聞くというよりも足裏の微振動で体感するようなものであり、指向性はありませんし、何歳になっても体感でき、可聴下限周波数は加齢とは関係ありません。


大きくて重い愛用のサブウーファー (再生可能周波数範囲はなんと16〜160Hz!!)


 以上の原稿は、上記のオール真空管・バランス伝送のシステムで、レコードを聴きながら書きましたので、その雰囲気が少しでも文章に出ておれば幸いです。私はオーディオの研究もかなりしておりますので、単に趣味でレコードを聴いて楽しんでいるだけではなく、普通の人ではやらないであろうと思われる色々な特殊な実験もしており、音楽に没頭して純粋に音楽を楽しんでいるのではなく、まるで測定器のような聴き方をして音を分析していることが多いのは残念ですが、どうしても自然にそうなってしまいます。

 愛聴盤を楽しんでリラックスして聴けば、ストレス解消 、ひいては健康増進にきっと効果が出るはずです。『健康がすべてではない。しかし健康がなければ、すべてはない。』が私のモットー・座右の銘です。皆さん、レコード音楽を聴くことに没頭し、しんで、たとえ一時でもストレッサーを忘れて、健康増進に役立てて健康長寿で幸せな人生を送ってください。健康に一番悪いのはストレスなのですから。

Viva Vinyl, Tube, and Balanced Connections!


 
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