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外観も写りも非常に魅惑的なライカの古いレンズ

 それまでのカメラは、割れやすい大きなサイズのガラス乾板に写真を写す形式で、三脚が必須の大型の木製ボックス型のカメラしかなくて写真撮影はとても厄介だったのですが、世界で初めて映画用のフイルムをそのまま利用した35mm版(ライカ版ともいう)小型カメラを開発したのがドイツのライカ社でした。すでに1913年に『Urライカ』と呼ぶ現在の小型カメラくらいのサイズの試作機が2台製作され、引き続いてA型ライカと称するカメラの市販が開始されました。これはレンズ交換のできるレンジファインダー型カメラで、L型と呼ぶスクリューマウント式のレンズを付けるものでした。スクリューマウントとは、レンズとカメラボディの接合部のそれぞれに雄ネジと雌ネジが切ってあり、何回も回転させてレンズを脱着するもので、手間がかかります。
 1954年には、それまでの欠点を解決した画期的なM3型と呼ぶバヨネットマウント方式の交換レンズを付ける画期的なカメラ(M型と呼ぶ)が発売され、このマウントは現在に至るまで採用され続けております。バヨネットマウントとは、現在の世界中のレンズ交換式のカメラ全般に採用されている方式で、カチッと一瞬にして脱着できる簡便なものですが、その規格は各社まちまちで、互換性はありません。ライカの場合、スクリューマウント式の古いレンズをバヨネットマウント式のカメラに装着できるようにするマウント変換アダプターが市販されており、1930年代のレンズでも、このアダプターを介して最新のMマウントカメラにも問題なく使えます。このような互換性の保持もライカレンズの素晴らしい点の一つです。ただし、逆の変換(M→L)はできません。
 また、1965年には一眼レフカメラ(R型と呼ぶ)の新発売の発表があり、続いて市販されていますが、キヤノンやニコンの一眼レフに押されてか、ライカの一眼レフはあまり人気がなく、ライカはやはりレンジファインダー型が主流です。ライカのカメラは、当初から現在に至るまで、丁寧に手作り式に製作されているので非常に高価ですが、材質はオール金属で作りがしっかりしているので、小型の割には、ずっしりと重く、たとえば、この原稿の最後から3つ目のSUMMILUX 35mm F1.4 ASPHERICAL(近年のもの)は、小型なのに真鍮の削り出しブロックにメッキをしたもので、最大部の直径:50mm、突起部を含む長さ:57mmと小型なのに424グラムもあります。比較のために、ほぼ同じサイズのキヤノンのレンズ(EF 50mm, F1.8)の質量を測定したところ152グラムしかありませんでした。これの外部の材質は、プラスチックのようですが、両レンズは値段が40倍も違うので、両者を比較すること自体、意味がないかも。現在の安価なレンズは、ほとんどすべてが、外装はプラスチックだと思います。さらにズーミングやフォーカシング時の回転の滑り止めにゴム製のリングが巻いてあるのも多く、経年劣化でゴムがひび割れたりするなど問題があります。ライカのレンズには、そのようなものはなく、何十年と安心して使えます。
 ちなみに初期のライカのカメラの値段(レンズ付で1200円くらいしました)は、当時の東京で一軒の家(場所にもよりますが土地付で1000円くらい)が買えたほど超高価だったそうです。現在のライカは、それほど高価ではありませんが、一品一品手作り的に仕上げており、注文して1〜2年待たないと入手できないようなレンズもあります。
 ライカのロゴマークは、下に示すような赤い丸の中に独特の字体でLeicaと書かれており、ライカカラーは赤のようですので、ここではレンズやカメラの背景は、すべて赤い色で撮影しました。
 ライカの古いレンズは、それぞれにデザインが芸術的、個性的でユニークさがあり、持つ喜び・使う喜びが強く感じられます。どのレンズの形状も自己主張が強く、離れた所からでも外観を見ただけで、どのようなレンズであるかがすぐわかり、とても素晴らしいものです。ライカのレンズ・カメラを一度使ったら病みつきになり、この世界ではそれを『ライカウイルスの感染』と言います。特に現代の一般的なレンズのように、プラスチックを多用して低価格、利便性、機能性などを重視した、どこの会社のものでもほとんど同じような形状で画一的であり、個性や芸術性の無い愛着の湧かない趣味性の低いものとは全く異なる別世界(Leica World)のものです。百聞は一見にしかずで、下のライカのいくつかの実例写真をよくご覧下さい。個々のレンズの外観自体がすでに特別の雰囲気を醸し出していると思います。実際に実物に触れてみないと本当の良さはわからないでしょうが、見た目、触った時の金属独特の手の感触・重み、質感、シャッターの切れ味と音など、枚挙に暇がないくらい素晴らしいです。
 ライカのカメラボディやレンズには、製造番号が刻印してあり、その一覧表が完備しているので、それで調べれば、当初から現在に至るまで全ての製品がいつ製造されたものであるのかがわかるようになっております。この原稿の最初に出て来る古いカメラはVf型で、その軍艦部に刻印されている番号から、1956年頃に製造されたことがわかります。
 ライカのレンズで撮影すれば、その場の空気感までも写ると昔から言われており、ライカ独特の何ともいえない素晴らしい雰囲気の写真になります。現在主流のデジタル一眼レフカメラと比べると、ライカは即写性、簡便性、機能性などで劣りますが、じっくりと時間をかけて芸術性豊かな味のある写真を撮影するのに向いております。撮影時に、ハイクラスのカメラ・レンズで撮影しているのだから下手な写真は制作できないとの思いが強く出て、自然と素晴らしい写真が出来上がりますので、写真の上達には使用機材も重要です。
 もう20〜30年も前のことですが、大和路や仏像の撮影では日本一と言われている入江泰吉先生(1905〜1992)に写真撮影のことを教えていただいたことが何回かあり、奈良市水門町(東大寺の境内のすぐ西隣)にあるお宅へもお邪魔したことがあります。自分で自信のある作品しか見てもらいませんが、先生の批評のやり方は、教育者としても見習わないといけませんが、まずは『なかなかいいですねー。』と全般を褒めて下さいます。これで喜んでいてはいけません。次の言葉が重要で、『しかし、×××を○○○すると、もっと良くなります!』と言われるのです。この優しい言葉で、まず褒められてから改良のためのアドバイスを受けると、やる気が沸き一層腕が上達するものです。入江泰吉先生は、とても穏やかな素晴らしい先生でした。先生が審査委員長をされた春日大社の『万葉植物写真コンクール』で萩の写真を応募して入選させていただいたこともあります。入江泰吉先生のとても有益な教えは、決して忘れることなく、その後の撮影に生かしています。

 その当時、奈良公園で入江泰吉先生に撮影の指導を受けている時に、
鷺池・浮見堂・浅茅ヶ原を背景にして先生(右側)と記念撮影
(額に入れて自宅に飾ってある古い写真で撮影者は家内)






カメラについているライカのロゴマーク    古い標準レンズを付けたライカカメラ 

Elmar f=3.5cm 1:3.5 Lレンズ(製造期間:1930〜1950年)
昔のレンズの焦点距離の単位はcmでしたが、現在はmmです。また、3.5cmを3,5cmと、
小数点がコンマでドイツ語式に記載されています。この次のレンズも同様です。


Elmar f=5cm 1:3.5 Lレンズ(製造期間:1930〜1959年)


上記のレンズを付けたスクリューマウント式の古いライカカメラ(1956年頃製造)


SUMMICRON 35mm F2 (製造期間:1958〜1969年)




ELMARIT 90mm F2.8 (製造期間:1959〜1963年)


SUMMILUX 50mm F1.4 (製造期間:1959〜1961年)


ELMAR 50mm F2.8 (製造期間:1957〜1974年)

 このレンズは『沈胴式』という珍しいもので、撮影時に中央の胴を引き出し、撮影後は沈めてコンパクトに収納できる便利なものです。ただし、カメラはレンジファインダー式であり、ファインダーから見た景色と実際にフイルム面に届いている映像とは全く別系統ですので、撮影時にレンズを引き出すのを忘れていても、ファインダーを覗いた景色はクリアに見えているので気付かずにいると、レンズの焦点が全く合っていない何が写っているのかわからない大ボケの写真になってしまうという、『沈胴式レンズ』とレンジファインダー式カメラの組合せには、ダブル欠点がありますので注意が必要です。もっとも撮影者がしっかりしておればそんなことはありませんが、ついうっかりしていて、誰でも一度はやってしまう失敗ではないでしょうか。筆者もこのような失敗の経験があり、泣きました。一眼レフカメラでは絶対にあり得ない失敗です。

上記のレンズを付けたライカカメラ(専用露出計が上部にセットしてある)

 左:沈胴を沈めた収納時の様子    右:沈胴を引き出した撮影モードの時の様子

 以下に示す全レンズは近年のものなので、古き良きライカの雰囲気は、かなり薄れてきています。写り具合もそうですが、レンズに刻まれた文字の字体にもデジタル時代が感じられます。やはり、ライカの世界にも時間は着実に流れていて、新時代の到来がわかります。

SUMMILUX 35mm F1.4 (製造期間:1961〜1995年)

 このレンズは、カメラに装着した時の突出部はわずか3cmしかなく、超小型で携帯性に非常に優れています。広角なのに縛り開放で撮影すると下の左側の写真のように独特の強いボケ味が出ることで有名です。下記のSUMMILUX 35mm F1.4 ASPHERICALレンズは焦点距離や開放絞り値もこれと全く同じですが非球面レンズを採用するなどして収差を完全に除去しているので、このような独特の強いボケ味は出なくなり、優等生過ぎて面白くなくなってしまいました。


世界各国の土産の中で中央の赤毛のアン人形の顔にピントを合わせて上記のレンズで撮影

 左:絞り開放(1.4)で撮影  右:絞り4で撮影


               

SUMMILUX 35mm F1.4 ASPHERICAL (1994年頃製造のもので質量は424グラム)
“ASPHERICAL”とは、高性能で高価な『非球面レンズ』という意味です。


上記のレンズを付けた新しいライカのデジタルカメラ


ELMARIT 28mm F2.8 ASPHERICAL (1990年代に製造)


 最後に示すのは、ライカのライバル会社のCarl Zeiss社から市販されているライカM型用レンズの一例です。一般にこの会社のレンズは非常にシャープに写ります。ライカのカメラボディにツァイスのレンズを付けて撮影するのも楽しみの一つです。ライカMマウントは、世界標準になっており、このようなライカに互換性のあるレンズは、数社から市販されており、マニアは撮り比べをして楽しんでいます。 

Carl Zeiss Biogon 21mm F2.8 Leica M Mount(近年に製造されたもの)

 これもオール金属製でずっしりと重いです。日本のレンズではこのような例はないと思いますが、ライカやツァイスの全てのレンズにはELMARITやBiogonなどといった分類のための独特の名称(愛称)が付いているのが特徴です。ちなみにライカのレンズの名称で、たとえばSUMMILUXというのは、開放絞値(F値)が1.4であることを示しているのです。

 以上に関連して、筆者のホームページの中にある『カメラと写真について』も参照して下さい。

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