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レコード音楽を楽しもう ― 1万円の予算でも可能です! ―

はじめに

 今までレコードで音楽を全く聴いたことのない人のために、自分で簡単に安価にレコードを聴くための入門者用の具体的な方法を、本稿の始めに紹介しますので、興味のある方は、ぜひトライしてみてください。予算が1万円のみでも可能です。しかもやろうと思えば、歩きながらレコードを聴くことができるのもあります。ちなみに、上限は2,500万円くらいするレコード再生システムもあります。レコードは今、静かなブームになりつつある古くて新しい音楽メディアです。デジタル時代のストレス過多の現在こそ、スローライフのレコード再生で癒されるべきでしょう。特にLPレコードは完全に実用になりますし、いくらでも入手できます。現代の若者は、レコードのことを全く知らないと思いますが、未知の世界への参入は、どの分野でもワクワクします。レコードは、スマホなどで聴くクリアすぎる無味乾燥のデジタル音楽とは異次元の癒しの世界です。
 蓄音機が世界で最初に世に出たのは1877年のことであり、発明王・エジソン(Thomas Alva Edison 1847-1931)の発明品でした。その記録メディアは、円筒形をしており、円盤レコードとは違って線速度が終始一定という特徴がありました。円盤では、内側ほど線速度が遅くなり、厳密に言うと内側ほど音質が低下します。現在のような円盤型のものは、その直後にベルリナー(Emil Berliner 1851-1929)によって発明されたものです。レコードは今から137年も前からある、とても古い音楽メディアですが、現在でも新譜が次々と市販されており、2013年の総生産枚数は約27万枚です。熱狂的なレコードマニアは、レコード全盛期よりも現在の方が多く、しかもカートリッジやターンテーブルのようなハードウエアは、明らかに現在のものの方が、はるかにレベルは上で、とても信じられないくらい高価で高性能なものまであります。たとえば、レコードプレイヤーシステム(カートリッジとトーンアームとターンテーブル)だけで2,500万円近くらいするものまで現在は市販されております。ここまでレコードシステムが発展するとは、以前には全く予想もできませんでした。そしてレコードは消滅するどころか、ますます元気になってきており、現在のハイエンドオーディオは、ハイレゾでもCDやSACDでもなく、やはりレコードなのです。ハイレゾが現在は非常に話題になっておりますが、ずっと以前からオーディオをやっている経験豊富で本格的なシニアのオーディオマニアは、ハイレゾには興味を示さず、レコードのシステムでハイレベルのことをしているようです。たとえデジタルをやるとしても、せいぜいCDまでです。
 ところで未体験の人が、いきなりレコードの世界に飛び込むのは大変でしょうし、どうしたら始められるのかさっぱりわからないかと思いますので、手軽に気楽にひとまずとにかくレコードの世界に新規参入し、自分自身で体験してみる方法を紹介します。予算は、わずか1万円でもできます。そして、気に入れば徐々にグレードアップしていき、最後にはオーディオの泥沼の世界に没入してください。以下に示す入門用の2つのレコードプレイヤーシステムは、全て今回の原稿を書く目的だけに新たに購入して実験したものであり、決して自分が普段に使うために揃えたものではありません。
 ここでまずはレコードシステムの各部分の特徴の要点を、思いつくままにまとめておきます。


レコード盤

 オーディオ用として最も一般的なものは、1948年ころに出現した直径が30cmで真っ黒な塩化ビニール製の円盤で、33.33回転のLP盤と呼ばれているもので、片面30分くらいの音が入ります。このようなレコード盤が入っている厚紙製のケースは、ジャケットと呼ばれており、通常は表面に写真、絵、イラストなどが描かれていて、裏面には解説文などが書いてあります。解説が多い場合には、さらにジャケットの中にも解説文が入っております。おもて面は、人を引き付ける、なかなかおしゃれなデザインのものが多く、部屋などに飾るのにも程よいサイズなので、レコード盤の内容よりもジャケットのデザインや面白さなどで購入する人までいます。現在でもレコードの新譜が次々と発売されており、中古品も含めてインターネットで買えます。都会へ行けば、新品や中古のレコードを売っている店がありますので、直接手に取って、気に入ったものを購入するとよいでしょう。大阪・日本橋の電気屋街には10店くらい中古レコード屋があり、私がよく行く2店の店内の一部分のみの写真を次に示します。いずれも店内には、ぎっしりとレコードが並んでいます。10万枚くらいのストックがあるとのことなので、現在でもレコード盤は、いくらでも入手可能です。店の人に聞いたところ、やはりレコードを買う人は、ほとんどが中高年層だそうです。中古レコードは200円くらいからあり、普通のものなら数百円から2千円くらいまでです。ただし、歴史的名盤は5万円くらいするものもあり、下記のDISC J.J.では壁に展示してあり、即売もしています。どこの中古レコード店でもLPレコードがメインの商品で大量にありますが、後述のようなSP盤とドーナツ盤は少ししかありませんし、シリンダー形レコードは、古すぎて今や売っておりません。

 DISC J.J. (Tel 06-4397-0655) にっぽんばし道楽 (Tel 06-6648-1335) 

 クラシック音楽で標準になっている直径が30cmで33.33回転のLP盤(Long Play)の他に、歌謡曲などが入ったシングル盤の、もう少し小さいサイズで45rpmの通称ドーナツ盤(中央の穴の直径が38mmと大きいための名称)と呼ばれている1980年代にジュークボックス用に開発された直径が17.5cmで片面8分くらいの音が入るものや、もっと昔の1887年に出現した78回転のSP盤(Standard Play ← 当時は『標準』だったため)というのもあり、直径が25cmくらいで片面に3分30秒くらいの音が入りますが、現在ではほとんど使われておりません。比較のために、それぞれのレコードを並べた写真を次に示します。

左から順に SP盤(25cm)、ドーナツ盤(17cm)、LP盤(30cm)
左:Dinah Shore, HOW COME YOU DO ME LIKE YOU DO?, RCA Victor
中央:都はるみ、北の宿から、日本コロムビア (センターホールが大きい)
右:モーツァルト・クラリネット五重奏曲ほか、ロンドンレコード


 レコード盤というと老人好みの古臭いメディアであって、若者には無縁のもののように思っている人もいるかと思いますが、それは間違いで、たとえば今年の2014年に限定盤として発売された次に示す最新のレコードは、明らかに若者用であって、シニア層はまず買わないでしょう。歌手名も曲名も何のことかさっぱりわからないし、まともに発音もできないと思います。それは『きゃりーぱみゅぱみゅ』(歌手名)の『にんじゃりばんばん』というタイトルの若者に人気の歌手が歌っている曲で、レコード盤の両面に彼女の顔写真などがデザインされてプリントしてあり、見ても楽しめるものになっています。彼女はニューヨークなど、海外でもライブは満員で、非常に人気があるようです。曲はおもて面(写真左側)のみに入っています。いろんな点で従来のレコードとは、かなり異なっています。

『きゃりーぱみゅぱみゅ』の限定盤レコード『にんじゃりばんばん』
2014年発売の最新盤 (直径17.5cm)で左がおもて面、右が裏面(曲なし)


 レコードの最大の特徴は、円盤のサイズやジャケットのデザインによるその存在感と再生中の回転している様子や針で音を拾っている様子がよく見える『見える音楽!』ということでしょう。なので、ブラックボックスのデジタル音楽とは対照的です。やや面倒な点としては、再生する直前にレコード盤上の微細な埃を専用のクリーナーで拭き取らないと、再生の時にそれによる小さいノイズが出ることですが、それもレコードを清める再生前の儀式の一つと思えばよいのです。これは、あわただしく働きまくっていてストレスが溜まっている現代人に必要なスローライフです。再生の時に、レコード盤の溝を針が接触してトレースしますので、長時間の使用でレコード盤も針もすり減ることが問題点です。
 驚いたのは、故人を偲んで遺灰の粉末を練り込んだレコード盤に故人が好きだった曲などを入れたメモリアル・レコードを、30枚以上なら作成してくれる会社まで今やあることです。しかし、そんなレコードは、もらいたくないですねー。
 エジソン式の『ろう管』に自分の声などを録音して聴く超スローライフ録音が可能です。それは次の写真に示すようなエジソン録音機のキットが市販されており、それを私は自分で組み立てて、発明王エジソンの凄さに思いを馳せて楽しんでいます。余談ですが、私は子供のころから工作が大好きでした。
 今から137年前(2014年現在)に人類が初めて音を録音・再生することに成功しました。それはエジソンが発明した、次の写真のような蓄音機です。これは、キットを私が組み立てたもので、自分の大きな声などを吹き込んで再生する録音機ですが、本物の類似の装置は後述します。エジソン自身が大きな声で『メリーさんの羊』を歌って吹き込んだのは有名です。

キットを自分で組み立てた『エジソン録音機』
自分の声などを蝋の棒に吹き込んで再生できる


 世界で最初に実際に稼働した再生可能な蓄音機(Phonograph)・録音機は、1877年にエジソンによって発明されました。その装置は、金属の円筒に錫箔を巻きつけたものが記録メディアになっており、エジソンはその振動板に向かって大声で『メリーさんの羊』(Mary had a little lamb, Little lamb, little lamb, Mary had a little lamb, Its fleece was white as snow.)を歌い、その振動によって歌が針で錫箔に記録されました。それを再生してみると、見事に吹き込んだ歌が聴こえてきて、半信半疑だった周囲の人たちは驚嘆の声を上げて、この大成功を祝福したとのことです。その頃の貴重な写真をエジソン像の置物と共に次に示します。この写真はエジソンが30歳の頃のものです。これらは苦労して入手したものです。
 記録メディアは、最初は錫箔でしたが、次に蝋管となり、さらにセルロイドへと、安定な実用になるものに改良され、音楽などを吹き込んで市販されるようになりました。しかし、実際にその再生音を聴いてみますと、現代のLPレコードの音と比べれば、音のクオリティの点では比較になりませんが、なにしろ100年以上も前のものであることを考慮すれば、立派なものです。






 世界最初の蓄音機とその発明者エジソンの写真
写真の下はエジソンのサイン
シニア時代のエジソン

エジソン像の置物
 写真の中にある銘板は像の裏面に刻印されているもの 


寺田寅彦は中学生の時にエジソン蓄音機を聴いて科学者になることを決断

 寺田寅彦(1878年11月28日~1935年12月31日、満57歳で没)は、著名な科学者(東京大学理学部の前身の教授などいくつかを歴任)であり、さらに随筆家・俳人としても有名で、文学作品も実に多く出版しています。寅年の寅の日に生まれたので『寅彦』と命名されたのだそうです。第五高等学校時代に夏目漱石の指導を受け、その後も親交を重ねて大きな影響を受けています。『尺八の音響学的研究』で1908年に理学博士の学位を取得しました。
 寺田寅彦が大正11年(1922年)4月に書き上げた短編随筆『蓄音機』の中に非常に興味あることが書いてあることを偶然に見つけましたので、その要点をなるべく原文に近い表現で以下に紹介します。寺田寅彦は文章をものする日本で最初の科学者ですが、90年以上も前に書かれた古いものであり、やや読みにくいです。
 さて、寺田寅彦が中学校生のある日に、学校の講堂にエジソンの『ろう管蓄音機』が名士によって持ち込まれて、その実演が行われ、ろう管に吹き込んだ生の声が再生された時の驚きは、中学時代の思い出の中で目立って抜き出ており、欧米の科学技術の進歩に圧倒され、実に驚異的で、子供の時から芽を出しかけていた科学に対する愛着の心に強い衝動を受け、これが科学の道に入る最終的な引き金となったようです。この経験を世の教育者達に捧げて参考にして欲しいと述べています。
 この随筆の最後のまとめとして、蓄音機の望ましい将来の完成形は、谷川の音、浜辺の波の音などを忠実に再現できるレコード再生システムであり、塵の都に住んで雑事に忙殺されているような人が少しの時間を割いて、無垢な自然の境地に遊ばせることもできようし、長い月日を病床に伏している不幸な人々の神経を慰め、精神面の治療に資することもできるであろう。このような種類のレコードこそがあらゆるレコードの中で最も有益で最も深い内容を持ったものとなるはずである。政治家は一国の政治を考究する時に、教育者はその教案を作成する時に、忘れずにしばらくこのようなレコードに耳を傾けてもらいたい。労働者もその労働の余暇にこれらの『自然の音』に親しんでもらいたい。そういう些細なことでも、その効果は思いの外に大きいものになるであろう。少なくともそれによって今の世の中がもう少し美しい平和なものになであろうと、なんと90年以上も前に書いているのは驚きです。これはそっくり現代に当てはまることではないでしょうか。まさにストレス過多の現代にヒーリング音を聴いてストレスを解消し、仕事の効率アップ、健康増進などに役立てようとするのと全く同じことを、そんな昔に予言しているのは凄いことです。やはり寺田寅彦は、偉大な人物ですねー。
 以上の詳細については、ぜひ原文を読んで知ってください。ご参考までに、私が読んだのは文庫本で、『ちくま日本文学 034 寺田寅彦 の41~65ページ』(880円+税)に掲載されている短編随筆28編中の4つ目の『蓄音機』です。短すぎて『蓄音機』単独の本は市販されていないようです。この随筆は短編なので、すぐに読み終えることができます。


カートリッジ

 レコード盤の溝に刻まれた横方向の凸凹の波状の物理的信号を針でトレースして発電して電気信号に変換するものがカートリッジです。発電形式によってMM型(オーディオテクニカ社のみVM型)とMC型があります。MM型はパワフルで骨太の音がしますのでジャズやロックに向くとされているのに対して、MC型は繊細でワイドレンジの音が出るのでクラシック音楽に向くとされておりますが、MC型は出力電圧が0.2~2.5mVと低いので、アンプとの間に昇圧トランスが必要になります。ちなみにMM型なら5~10mVくらい出ます。同じレコード盤を再生しても、カートリッジによって音色はかなり異なりますが、それはスピーカーでも同様です。なので、色々と取り替えて音色の違いを比べるのもオーディオの楽しみ方の一つです。ただし、安価なシステムに組み込まれているカートリッジは固定式で交換できません。カートリッジは、百万円近いものまで、ピンからキリまで市販されております。MMはMoving Magnetの略で、針に直結したマグネットがコイルの中で振動して発電するものですが、MC型はMoving Coilの略で、針に直結したコイルがマグネットの中で振動して発電しています。構造上、MC型は自分で針交換ができませんし高価ですので、安価なプレイヤーシステムには採用されておりません。


トーンアーム

 カートリッジを保持し、トレースするのに必要な金属製のパイプで、その中にはカートリッジからの出力ケーブルが入っています。安価なレコードプレイヤーシステム以外では、交換できるようになっておりますし、マニアックな人は、2~3本を常にセットしていて、曲目などに応じて使い分けして微妙な音の違いを楽しんでいる人もいます。


ターンテーブル

 レコード盤を載せて回転させる円盤です。静かで安定した回転になるように考えられており、高級なものは非常に重い金属の塊の円盤を、モーターの振動を遮断するためにベルトでドライブしています。なんと700万円くらいするものまであります。こんな超ド級のターンテーブルは、以前には全く存在していませんでした。現在のレコード再生システムの上限は、とにかくすごいです。通常のものは、モーターとターンテーブルが直結しているダイレクトドライブ方式です。この方式は、ベルトドライブのようにベルトの経年劣化のようなことが起きない代わりに、モーターの微細な振動が直接レコード盤に伝わり、再生音にわずかに影響すると言う非常に神経質な人もいますが、入門者はそんなことは全く気にしなくていいです。
 次に、レコード盤からスピーカーまでの電気信号の流れを模式的に示します。

マニアックな人は、上記の各部分に別々の独立した高級なものを選んで組み合わせて楽しんでいます。これら全てがオールインワンになっている非常に簡便で安価な超入門者用のシステムもあり、その実例を次に示します。


1.オールインワンのレコードプレイヤーシステム

最近のオールインワン型レコード再生システム(約1万円)
これは入門用に最適の機種で、これだけでレコードが聴ける


そのシステムの後部にある出入力端子類


 このシステムは、イコライザー、アンプ、ステレオスピーカー(手前両サイドの黒い円形部分)、ボリュームなど、レコードを聴くのに必要なものは全て内蔵されており、これだけで音が出ます。逆に言うと、各部は何も交換できません。ただし、針だけは交換可能なようです。ターンテーブルとトーンアームは一枚のプラスチック板の上に固定されており、それ全体がスプリングによって本体からフローティングしていて、台座からの振動を防ぐようになっています。外部出力端子(RCAタイプ)が本体後部に付いており、外部アンプに接続して大きなスピーカーで迫力ある音で鳴らすことも可能です。さらにUSB端子もあり、パソコンと接続して、レコードのアナログ音をデジタル化することも容易にできます。それに必要なコンバーターソフトもCDで付属しており、超安価なのに至れり尽くせりですが、イヤホンは使えません。本体上面の木目がとても魅力的でインテリアとしてもふさわしく、アメリカのロードアイランド州にあるIon Audio LP社の製品で、値段はなんと1万円くらいです。つい最近になり、イヤホン端子とダストカバー付きも発売され、2千円くらいアップです。マニュアルは、英語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ドイツ語で書いてあり、日本語は一切ありません。このシステムは、オールインワンなのに特別安価で、内蔵スピーカーも小さいので、音は良くないだろうと予想されがちですが、値段の割には音はかなり良く、コストパーフォーマンスは最高ですので、これからレコードを始めてみようかなと思う人には一番のお勧めのベストバイ商品です。


2.ポータブルタイプのレコードプイレイヤー

ACアダプターの他に乾電池(単三6本)でも作動するポータブルのレコードプレイヤーがあり、その写真を次に示します。これは1万円くらいです。音質は、あまり良くありませんが、ポータブルであることとSDカードを後部のスロットに挿入して、それにデジタル化した音で録音できることが最大の売りです。しかし、ポータブルオーディオの装置にしてはサイズが大きいですし (W277 x H97 x D104mm, 785g)、家の中ですらレコードを聴く人はほとんどいない現状では、これを持ち歩いて外でレコードを聴くことはまずいないでしょう。

ポータブルレコートプレイヤーシステム (RM-URP100型: 約1万円)


そのシステム後部の出入力端子類


 これを実際に手に持って普通に歩いて試してみたところ、その程度の振動では針飛びは全く起こらず、予想以上に振動に強いようです。学生の研究補助員に、三重大学構内で実際に歩いて実験をしてもらった時の様子を次に示します。歩きながら聴いても、音的には何も問題はありませんでした。しかし、荷物になりますし、常に水平を保たないといけないので、歩きながら聴くのは実用になりません。これは、あくまで実験をしてみただけです。


『きゃりーぱみゅぱみゅ』の『りんじゃりばんばん』を聴きながら歩行実験中
歩きながらでも問題なく聴けますが保持が大変です


3.アンプ・スピーカーを持っている人がレコードを始めるのに最適な
コストパーフォーマンス最高の初級レコードプレイヤーの紹介

 大阪のIDEコーポレーションから発売されているNEU DD1200mk3がそれで、下にその写真を示します。ネット販売価格は27000円くらいで、デザインも良くて非常にお値打ちで人気商品なので非常に品薄になっており、注文してから2か月近く待たされて、やっと入手できました。このモデルに瓜二つのデザインの製品が他にありますがもっと高価です。原点は同じで、どこかのOEMではないかと思われます。
このモデルの特徴の要点は以下のようです:
★とにかくコストパーフォーマンスが最高で一押しのモデル
★通常は33.3回転と45回転のみであるが、これはさらに78回転も可能で、SPレコードに入っている音声の物理的信号を電気信号として取り出せる貴重なもの。この点がこのプレイヤーの最大の長所かも。ただし、付属のカートリッジはLP盤用なので、SP盤を聴くには別途それ用のカートリッジ(下の写真参照)を購入する必要がある。世界標準のカートリッジならどれとでも交換可能。
★DJ用に開発されたようで、回転数を最大±20%変えることができ、さらに自動逆回転もできるマニアックなもの。
★イコライザーが本体内に内蔵されているので、RCAケーブルでアンプと接続するだけで音楽が楽しめる。また、それをスルーすることもできるので、外部イコライザー経由でアンプのAUX端子と接続したり、上級アンプにあるようなフォノ入力端子と接続することも可能。
★出力端子はRCAの一系列のみ
★針圧は0~3.5グラムまで連続的に調節可能
★アンチスケーティングは0~7グラムまで連続的に調節可能
★回転数チェック用のストロボスコープ装備
★以上のようにレコードプレイヤーに必要な機能は全て揃っている
★サイズは450x352x157mmで、重量は10.5kg

左の写真:プレイヤーNEU DD1200mk3で紫色で半透明のLPレコードを再生中の様子
右の写真:アームに付いている付属のカートリッジと別途購入したオーディオテクニカ社のSP盤用のカートリッジ。最初から付属のカートリッジも同社のもの。



以下はマニア向けの参考資料
4.初期の頃のレコードとその再生装置

 次の写真に示すのは、円筒型レコードを再生するゼンマイ駆動式蓄音機で、エジソンが開発したものです。写真のモデルは『スタンダード型』と呼ばれている完全メカニカル方式のもので、百年以上も前に市販されたのですが、現在でも正常に作動するのは驚きです。アンプなど入っていないのに、大きなホーンによって音は予想以上に大きく拡大されて出てくるのですが、周波数レンジが狭く、常にシャーというレコードと針の摩擦音が少しするのは仕方ないと思います。ハイレゾの時代に、百年以上も前のレコードが、その時代の再生装置で問題なく聴けるのは驚異的です。この頃のレコードはシリンダー(円筒)形をしていて、実測したところ直径が5.5cmで長さは11cmくらいです。1888~1929年頃に生産されました。色は黒色か濃い青色です。再生可能時間は、2分と4分が標準です。音の信号は、レコード面に対して上下方向の凸凹として記録されていますが、これ以降の円盤状のレコードでは、音の信号はすべて横方向の凸凹として記録されています。




エジソン電球とエジソン蓄音機  メカ部分とシリンダーレコード 

★左側の写真の左上にある電球は、エジソンが京都の竹で作ったフィラメント内蔵の電球のレプリカ。
★右側の写真の中央で光っている横向きの黒い円筒がレコードで、その右にあるのがそのレコードケースで ”EDISON RECORD” とプリントされている。


普段は見えない内部構造:よくメンテナンスがしてあるので、まるで現代の製品のように非常にきれいで、100年以上前の機械とはとても思えない。オーディオ装置というよりも、メカメカした精密機械という雰囲気がする完動品。



左:上記のエジソン蓄音機のホーン(拡声器のラッパ)を取り外して付属の上蓋を閉じた様子で、取っ手が付いていて持ち運びに便利
右: シリンダーレコードの実例


5.エジソン蓄音機の次の円盤レコード再生装置

  シリンダー形のレコードの不便さを解決すべく、現在のCDにまで引き継がれているような円盤形のレコードが、ドイツ出身でアメリカに移住した発明家であるベルリナーによって発明され、1887~1960年頃に生産されました。下に示すのは、直径25センチの円盤状のレコードのSP盤を再生するためのゼンマイ駆動式の蓄音機2機種です。1940年代前半頃の製品かと思われます。アンプなど入っていないのに、外付け、あるいはボックス内に内蔵されているホーンの効果で、かなり大きな音がします。ホーンは長くて大きいほど低音がよく出ます。エジソン式に比べると、音質的にかなり向上していますが、低音が不足なのは仕方ありません。




        ★左側: His Master’s Voice社製の蓄音機(SP盤専用) 
            本体正面にブランドの犬のマークが付いている
        ★右側: 同社の陶器の犬の置物3点セット(非売品)

His Master’s Voice(略称:HMV)は、亡くなった飼い主の声をニッパー犬が蓄音機で聞いて主人の姿が見えないので怪訝な様子でラッパをのぞき込んでいる様子をブランドにしたもので、イギリスに本部があるレコード関連会社の名称で、ビクター社(本社はアメリカ)とも深い関連がある。



Victor社のVictrola蓄音機(SP盤専用)



6.エジソンの『ダイヤモンド・レコード』について

 1877年にエジソンが円筒に音を記録するシリンダーレコードを発明しました。これの記録方法は、レコード面に対して針が上下に振動(縦振動)して音を拾うものでした。それに対してベルリナーは、円盤に記録するレコードを1887年に開発しましたが、これは針が左右に振動(横振動)する方式で、現在のLPレコードまで受け継がれています。比較のために、ベルリナー型レコードと後述のエジソンの『ダイヤモンド・レコード』の表面の顕微鏡写真を下に示します。
 エジソンも遅れて1912年に円盤状のレコードを発売しました。この場合にも縦振動にこだわり続けました。縦振動ですので、横振動のSPレコード用のリプロデューサー(サウンドボックス)は使用できず、それ専用のものをレコード面に対して平行に配置する必要がありますし、下に示すように針の形状も全く異なります。その当時のエジソンの円盤レコード用の針はダイヤモンドでしたので、このレコードのことを一般に『ダイヤモンド・レコード』と呼びます。

 ベルリナー型SPレコードの表面の顕微鏡写真  エジソンの『ダイヤモンド・レコード』の
表面の顕微鏡写真

 『ダイヤモンド・レコード』の厚みは約6mmもあり、直径(25cm)の割にはかなり重く感じます。しかし事情があって1929年になるとエジソンはレコードから完全に撤退してしまいました。これでレコードに関してはベルリナーに敗北したことになります。このレコードの生産期間は短く、残存数も少ないので、今や非常に貴重な存在です。

貴重なエジソンの『ダイヤモンド・レコード』の一例




左の写真: 左側はSPレコード(横振動)用の鉄針で右側は『パテの縦振動レコード』用の針の
      各先端部分の顕微鏡写真(両者の形状が全く異なる)
右の写真: 『ダイヤモンド・レコード』の厚みをSPやLPと比較するために各レコードの実物を
      並べて横から撮影したもの


針圧について

 レコードの溝から針で音(振動)を拾う際に、針からレコードに一定の圧力をかけて行いますが、その圧力のことを『針圧』(stylus pressure)と呼び、この加える圧力の強弱によってトレース能力やレコード盤の痛み方も違います。エジソンの縦振動レコード、パテの縦振動レコード、各社のSPレコードのそれぞれの専用蓄音機では、針圧は一定で変えることができない構造になっています。それに反してLPレコード用のカートリッジの場合は、とてもversatileで、トーンアームの最後尾にあるバランスウエイト(針圧調整ダイアル)を回して自由に針圧を変えることができます。とは言っても、普通は数グラム以内ですが。それぞれのカートリッジの適正針圧(範囲)は各メーカーから示されており、通常はその範囲内の針圧を自分でセットしてレコードを再生します。
 いくつかの針圧を実測した結果は下記のようです。今回使用したデジタル針圧計は、次の写真に示すデンマークの名門オルトフォン社のもので、0.5~200gの範囲で針圧の測定が可能です。この会社のMCカートリッジのSPUシリーズは、クラシック音楽ファンには世界的に定評があり非常に有名です。

オルトフォンのデジタル針圧計で右側のカートリッジの針圧を測定しているところ
この例は1.9gを示している (ターンテーブル上で測定)


★エジソンのシリンダーレコード用蓄音機: 針が奥まった部分にあり針圧の測定は不可能でしたが、100g以上あると思われます。
★エジソンの縦振動ダイアモンド・レコード用蓄音機: 112g
★パテの縦振動レコード用蓄音機: 145g
★HMVのSPレコード用蓄音機: 86g
★VictrolaのSPレコード用蓄音機: 73g


 以下はクラシック音楽用として非常に定評のあるLPレコード用のMCカートリッジです。一般的なカートリッジの適正針圧は2g程度ですが、オルトフォンのSPUシリーズの適正針圧は、その倍に近い値です。

★デノンのDL-103: 2~2.5g (メーカー推奨の適正針圧範囲)
★オルトフォンのSPUシリーズ各種: 3~4g (メーカー推奨の適正針圧範囲)


 以上の結果から、LPレコード(針圧1桁)に比べると、エジソンやパテの縦振動レコードには非常に高い針圧(3桁)がかかっており、さらにSPレコードにもかなりの針圧(2桁)がかかっていることがわかります。SPレコードの場合、再生時には先が鋭く尖った鉄針で、常に80g前後もの高い圧力で押し付けられて溝がこすられており、摩耗するのは当然です。にもかかわらず、SP盤が予想以上に長持ちするのはなぜでしょうか。それとも徐々に、ごくわずかずつ摩耗・劣化しているので気付かないだけでしょうか。人間の皮膚の上で同様のことをすれば血だらけになるのは確実です。レコードは、そんな苦痛に耐えて、美しい音楽を再生してくれているのだと思うと感激します。これは非接触のデジタル音楽の世界ではあり得ないことです。
 単純に考えると、たとえば針圧が2倍高いということは、レコード盤の摩耗も2倍早いと思われますので、レコード盤を非常に大切にしている神経質な人は、この点を注意すべきでしょう。ハイエンドのレコードマニアの中には、特に気に入った愛聴盤は同じものを2枚買って、そのうちの1枚は使わずに大切に保管している人もいます。



7.エジソン・ディスクに関するマニアックなお話し

Chippendale Edison Diamond Disc Phonograph: Official Laboratory Model
 最初のChippendale(チッペンデール)とは、イギリスの著名な宮廷家具師のThomas Chippendale(1718~1779年)のデザインを採用したものであることを表しています。この蓄音機の全体像などは下の写真を参照してください。チッペンデール様式とは、18世紀中ごろに特に流行したバロックとロココの様式にシノワズリーと呼ばれている中国様式を融合させたものです。彼はインテリアの総合デザイナーですが、特に椅子のデザインは有名で、カブリオレ脚:Cabriole Legs (猫足)ボール&クロウ:Ball & Claw (玉と爪)の脚部彫刻や唐草模様でカーブした背もたれなどは特によく知られています。
 標題の蓄音機は、それまでの高級モデルのC250型をさらに改良して、1919年に世に出た最高級クラスのモデルであり、金属部分は金メッキされた、とても豪華なものです。約百年前の当時の価格で300ドルくらいしたそうです。オーク材でできた高級家具調の蓄音機で、トールキャビネット(高さ:130cm、横幅:53cm、奥行き:57cm)の下の部分は、そのレコード盤を72枚収納できる収納庫になっており、その上の布張りのグリルの部分の中には、音量調節器付きのホーン(拡声器・ラッパ)が入っています。最上部は蓄音機のメカ部ですが、上蓋を開けた左手前には、下に写真に示すような、おしゃれな金メダルが貼り付けてあります。この蓄音機は、作りが非常にしっかりしていて、とても頑丈で重量は80kgくらいあるそうです。職業柄、自分で実測したいのですが、大きすぎ・重過ぎでとても無理です。時代考証をすれば、後述の本物の歌手とのすり替え実験は、この機種で行われたものと思われます。曲線や彫刻を多用していて、木目もとても美しく、外観を見ているだけでも惚れ惚れするような本当に素晴らしい、古き良き時代の特別の芸術作品です。このようなものを作るには、手間・暇・コストが掛かり過ぎますし、大き過ぎ・重過ぎもあって、これからのオーディオ装置として、同じようなものが出現することは有り得ないでしょう。


左の写真: 標題の蓄音機の全体像
      左下にあるのはエジソンの写真で右側中央のニッパー犬の左側にはエジソン電球の
      レプリカが光っている
右の写真: その蓄音機の下段にあるEdison Diamond Discの収納スペース
      (上下段に各36枚収納可能)。その上のグリルの奥にはホーンが入っている。


左の写真: この蓄音機の上部のメカ (青い矢印の所に金メダルが貼り付けられている)
右の写真: その金メダルに”Diamond Disc Official Laboratory Model. Thomas A Edison”と
      特殊な字体で書いてある


 Edison Diamond Discは、円盤レコードではベルリナーに後れを取ってエジソンが1912年に開発した縦振動形式のレコードで、直径は10インチですが、厚みが1/4インチもあるとても分厚い円盤で、反らないようにするためにこんなに分厚くしたようですが、レコード盤として安心感や安定感はありますが、やや扱いにくい厚さです。このレコードは片面のみに音楽が収録されていると書いてある記事を見掛けたことがありますが、それは間違いで両面に収録されております。さらに、縦振動のレコード盤だからこれくらいの厚みが必要であるという記事も見たことがありますが、それも間違いであり、縦方向の凸凹(これを”Hill & Dale”と呼ぶ)として音が刻まれているといっても、顕微鏡レベルの高低であり、そのために特にレコード盤の厚みを厚くする必要は全くありません。このレコードから音を拾う専用の『リプロデューサー』(サウンドボックスやピックアップと同義であり写真参照)の針は、高価ですが耐久性を考えてエジソンがダイヤモンドにしたために、このレコード盤のことを”Edison Diamond Disc”と呼んでいます。現在、一般に『ダイヤモンドディスク』と言いますと、ダイヤモンドの粉末を貼り付けた研磨用円盤や道路工事でよく見かける舗装箇所を切断したりするカッター円盤のことを指しますので念のために申し添えます。”Edison Diamond Disc”は、約100年前の非常に古いものであり、ジャケットの紙に酸性紙を使っているのか、ジャケットの紙を触ると破れるというよりも紙が割れるというような感じで、ちょっと触っただけでもパリパリと崩れてきて、どうしようもありません。その実例を下に示します。このディスクを再生する蓄音機の回転数は80回転/分です。


これはEdison Diamond Disc 25枚の集合体でジャケットの紙は変色しボロボロ
ちょっと触っただけでも『紙がパリパリ割れる』ので取扱いは要注意!
ただし、これほどひどくないもっとマシなものも手元にたくさんある。


Edison Diamond Discのレーベルの実例として、次の写真のような種類があります。

左の写真: 当初から1921年ころまでの半透明で文字や絵が非常に見にくいもの
中央の写真: それ以降のもので非常に見やすくなった
右の写真: 赤い星印が付いた特別のものでエジソンが”slow seller”と思ったもの


さらにジャケットの変化を次に示します。

左の写真: すぐ上に示す左側のタイプのディスクが入っているジャケットで、
     ”EDISON  DIAMOND DISC RECORD”と呼ばれていた

右の写真: それ以降のディスクが入っているジャケットで、”EDISON DIAMOND DISC
      RE-CREATION”と呼ばれるようになった。
     すなわち”RECORD”とは呼ばずに”RE-CREATION”というように
     呼び方が変更になった


蓄音機では最も重要なパーツであるディスクから音を拾う『リプロデューサー』『サウンドボックス』の比較のための写真を次に示します。





左の写真:エジソンのシリンダーレコード専用のリプロデューサー (赤い矢印は針を示す)
     実際に使うときは、これ全体がレコードの上に平行して覆いかぶさり、
     針の部分が全く見えないので、上に上げた状態で内側を撮影した写真

右の写真:エジソンのダイヤモンドディスク専用の金メッキされたリプロデューサーで、
     赤い矢印はダイヤモンド針。同上の理由でリプロデューサーを蓄音機から
     取り外して下面を撮影した写真。


左の写真:SPレコード用のサウンドボックス (HMV社製) レコード面に垂直になっている
右の写真:LPレコード用のカートリッジ (一番よく使っているDENONのMC型DL-103)


 肝心の再生音ですが、当時のアメリカ人の女性オペラ歌手のAnna Case(1888~1984年)の歌声が収録されたレコードの再生音と、途中ですり替えてブラインドテストをしても聴衆は区別がつかないほどであったという有名な伝説が残っています。Anna Caseの故郷とエジソン工場の所在地が同じニュージャージー州にありましたので、二人は親しかったのかなと思います。エジソンはAnna Caseの歌がとても好きだったようです。すり替え実験で最も有名なのは、1920年3月10日にニューヨークのカーネギーホールで2800人の聴衆を前にして行われたものです。すなわち、舞台の上で先ずはAnna Caseが蓄音機の横に立って歌いました。次に照明が消えてからも歌声が聞こえているので聴衆はAnna Caseが歌っているものと思っていたところ、照明が再び点くと、そこにはAnna Caseはいなくて蓄音機が鳴っているのみでした。それを見た聴衆は、非常に驚いたとのことです。その時の実際の様子を書いた記事を、Anna Caseの写真と共に次に示します。当時はエジソン蓄音機が店頭に展示してある実機の横にAnna Caseの実物大のパネルが置いてあったそうで、両者は特別の関係にあったようです。

左の写真: エジソン蓄音機やディスクと関係の深いソプラノ歌手Anna Caseの肖像写真
右の写真: 1920年3月10日にニューヨークのカーネギーホールで2800人の聴衆に対して行われた
      Anna Caseの生の歌声とディスクの再生音のすり替え実験の様子を書いた記事

 Anna Caseの歌声の入ったEdison Diamond Discの実例を次に示します。このディスクの写真にも写っているように、中心のレーベルの周囲に、なぜか3つの小さな凹みがあるものが多いのです。
 なお、Edison Diamond Discには、それぞれ固有の分類番号がディスクに記載されており、それは以下のように分類されています。
50000 Series: Popular
52000 Series: Electrical Recording
60000 Series: Spanish
73000 Series: German
80000 Series: Classical
82000 Series: Classic & Opera
83000 Series: Opera

 Anna CaseのDiamond Discのレーベル部分のアップの写真でAnna Caseの名前が書いてあり(赤いアンダーラインの上)、3つの凹み(赤い矢印の先)がある。 この凹みがある理由は諸説あって真相は不明。レーベルの一番上に書いてある82237-Rは、各ディスクに固有の分類番号であり、このディスクの裏面には82237-Lと書いてある。

 エジソンは、そもそも人の声を記録するためのヴォイス・レコーダーを作ろうとして、まずは錫箔を金属円筒に巻いた録音機(蓄音機)を開発し、当初は”Talking Machine”と命名しましたが、その後に改良を重ねて、ついには本物と区別が付かないほどの性能を有するような音楽を録音・再生可能な装置にまで発展しました。ここまで高性能になるとはエジソン自身も予想していなかったようです。
 この蓄音機は、蓄音機史上の名機の一つに選ばれています。そこで、上に写真を示すAnna Caseが歌う”No Night There (H. P. Danks) Soprano with Orchestra ANNA CASE ”とレーベルに記載されているエジソン・ダイヤモンドディスク(ディスクNo.82237-R)をこの装置で再生し、下に写真を示すようなマイクロフォン本体内に世界で最も定評のある高価なドイツのTELEFUNKEN社のECC83という電圧増幅用双3極真空管で構成されたマイク・プリアンプが入った最新の業務用の高性能コンデンサーマイクを蓄音機のホーンの直前に立てて、片面全体(4分3秒)の再生音を収録しました。その収録中の様子は、下の写真を参照してください。










左の写真:この種の真空管では世界一と言われているダイヤマークのドイツTELEFUNKENの
     電圧増幅用双3極真空管ECC83 (12AX7と互換性あり)
     全長は約5.5cm
右の写真:そのECC83真空管によるプリアンプ入りのコンデンサーマイクの内部の様子
  (写真中央下部にその真空管が見えるが通常は安価で入手しやすい中国製がよく使われている)


Edison Diamond Discに入ったAnna Caseの歌声の再生音を収録中の様子
手前の黒い箱はマイク内の真空管アンプに電源を供給する電源ボックス


 上記のようにして収録したディスク再生音楽をデジタルのWAVEファイルに変換してから、スペクトラムアナライザー(通称:スペアナ)で解析した再生周波数積算グラフを次に示します。これを見ると、高音は7000Hzくらいまで出ていることがわかります。このグラフと、後出の現代のLPレコードのそれを比較すると、約百年前のこのディスクのほうが再生周波数はワイドレンジで、ダイナミックレンジも広いことがわかります。しかもアンプや電気を全く使っていないのに、内蔵のホーンの効果で、かなり大きな音がします。そのためか物理的に音量を下げる機構が本体内に内蔵されています。


Edison Diamond Disc (No.82237-R)に入ったAnna Caseのソプラノの歌声 (オーケストラの伴奏付き) を最後まで4分3秒間再生してスペクトラムアナライザーで分析した周波数積算グラフ


 エジソンは、世界で最初に円筒型の記録器に記録する縦振動の蓄音機を開発しましたが、その後は電球の開発・改良に専念しておりました。その間にベルリナーが横振動の円盤型のものを開発して、世に広まっていきました。そして、SPレコード ⇒ LPレコード ⇒ CDなどのデジタル音源へと円盤形の音楽メディアは進化し、現在に至っております。エジソンもベルリナーより後になって、上述のような円盤形のディスク(ただし今回も円筒型と同様の縦振動型)である”Edison Diamond Disc”を開発して1912年に市販を開始しました。このディスクは、性能的には良かったのですが、エジソンは発明家であって、メカやハードには強くて素晴らしい装置などを次々と考案しましたが、レコードのソフト面や商売のやり方で少し問題があったために、ついに蓄音機は1927年に、ディスクは1929年に、それぞれ撤退してしまい、結局のところ円盤レコードでは、ベルリナー方式が生き残りました。

 上記の原稿をアップロード後、しばらくするとエジソンのシリンダーレコードや縦振動円盤レコードがどんな音がするのか聴いてみたいという方が何人もおられることがわかりました。それらの実際の生の再生音を聴くことは一般には非常に困難かと思いますが、次に示すような30cmのLPレコードにそれらの音が収録されていますので、このレコードを聴いてみると参考になると思いますので、ご希望の方はトライしてみてください。SIDE 1にはシリンダーレコードの曲が、SIDE 2には縦振動円盤レコードの曲が、それぞれ6曲ずつ収録されています。このレコードは、アメリカのカリフォルニア州AnaheimにあるMRK56 RECORDS社から1976年頃から市販されていたものですが、現在では入手困難(不可能?)かもわかりません。


エジソンのシリンダーレコードと縦振動円盤レコードの再生音が表面と裏面にそれぞれ6曲ずつ収録されている30cmのLPレコード (ジャケットの写真の蓄音機は上述と同じ機種)



8.パテ (Pathé) のレコード

 Pathé社の歴史は少しややこしいのですが、簡潔に要点のみを書きますと次のようです。Pathéの最後の文字は単なるeではなくてアクセント記号が乗っているaccent aigu(アクサン・テギュ)です。フランス人のシャルル・パテ(Charles Pathé)と弟のエミール・パテ(Émile Pathé)は、パリでレコードビジネスを立ち上げ、1890年代の中ごろには、エジソンの蓄音機やシリンダーレコードなどの販売を始めました。1892年になると、彼らが独自にデザインした蓄音機を売り出すようになりました。そして1896年には残りの2人の兄弟(テオフィル:Théophileとジャック:Jacques)も加わって、パリに蓄音機とレコードを販売する『パテ兄弟商会』(Société Pathé Frère)を設立しました。さらに事務所やレコーディングスタジオを、パリのみでなくロンドン、ミラノ、モスクワにも開設し、パリ郊外に蓄音機工場も建てました。1906年には縦振動円盤レコード(Center Startで90回転/分)の生産を開始し、1916年には縦振動円盤レコード(Rim Startで80回転/分)を、1924年には横振動円盤レコードの発売を開始しました。当初は、エジソンと提携したために、類似の商品が多くありましたが、次第にラテン系らしい独特のユニークで大らかなデザインのものを製造して市販するようになりました。こうしてレコード製作では大手になりましたし、レコードに続いて手掛けた映画撮影機器の製造では、当時の世界一クラスの会社に大発展しました。
 しかし、1928年にはイギリス・コロムビア社に買収され、さらにそこがザ・グラモフォン社(HMV)と合併してEMI社となりましたが、フランス国内にはEMI系列の中にパテの名前の入ったパテ・マルコニー社があり、LPレコードを出しておりました。それらがいわゆる
”PATHÉ EMI”盤“PATHÉ MARCONI”盤と呼ばれているレコードなのです。それらの実例については、後に示す写真を参照してください。さらに、ニューヨークにも会社を設立しましたが、1938年ころに閉鎖となりました。ベルリナー型の横振動レコードの影響などで、1925年頃には縦振動レコードの輸出を止め、パリで売るのも1932年で終了してしまいました。
 シリンダーレコードでは、針が左から右へと移動しますが、円盤レコードでは、エジソンのものは、現在のレコードと同じで針は外周から内周へと移動し(Rim Startと呼ぶ)、回転数は80回転/分です。それに反してパテのは、特に初期のものは内周から外周へと逆に移動し(Center Startと呼ぶ)、回転数は90回転/分で、いずれも回転の角速度が一定です。その後にパテもRim Startのレコードを市販しましたが、その回転数は80回転/分です。このような80回転/分や90回転/分は、特殊な回転数であり、それらの回転数を正しく調整するための専用ストロボスコープを特注で作ってもらいました。それが次の写真です。特注品のために、先方の意向で私の名前が入っております。そのストロボスコープやパテ・レコードを再生している様子を後の写真に示します。ちなみにエジソン蓄音機もパテ蓄音器も、動力が電気モーターではなくてゼンマイ式ですので、回転数を自動的に常に一定に保つことは不可能です。

左の写真 パテ・レコードの回転数を調整するための特注の専用ストロボスコープで、内側の
      縞模様が90回転/分用で、外側の模様は80回転/分用。これをターンテーブルに
      セットし、60回点滅/分のLEDストロボ光(商用100V交流60Hzで校正)を照射して、
      ターンテーブル上で回転している縞模様が流れずに静止すれば、正しい回転数に
      なっているので、回転速度を正しく調整してからレコード音楽を再生する。
中央の写真点滅間隔可変型LEDストロボ発光器で、これは60回/分の点滅回数にセットした様子
右の写真 上記の中央の写真のストロボ発光器の裏面上部にあるこのLED9個が、
      セットした60回/分で点滅しているところ


左の写真: 外側の縞模様が止まって見えるので80回転/分になっていることがわかる。
右の写真: 内側の縞模様が止まって見えるので90回転/分になっていることがわかる。


パテ・レコードを再生し始めたところ。レコードのセンター側から外側に向かって、先が太くて丸い長持ちするサファイア製の針が移動してレコードの溝をトレースする。古いパテ・レコードは縦振動型なので、針が拾った振動を音に変換するサウンドボックスの振動面は、レコードの溝の線方向に対して直角になっている。この音がホーンに導かれて大きな音になる。しかし一般的なレコードである横振動型のSP盤では、それが平行になっており、さらに針は先が鋭く尖っていて頻繁に交換しないといけない点が大きく異なる。


 パテ・レコードは、エジソン・レコードをまねて作り同じ縦振動型ですが、再生するときの針の形状(先が太くて丸いサファイア製)やサウンドボックスの形状も異なり、両者に互換性はありません。Center Startは、現在までの各種レコードとは逆方向に、内側から外側へ針が移動しますので、始めて体験する人には変な感じがするかと思いますが、なんと最新のCD, DVD, BDなどのデジタルディスクは、全てCenter Startなのです。これらは、レーザー光照射・反射光読み取りヘッドがフルオートマチックに開始点へ自動的に移動しますので、ディスクのサイズ(直径8cmや12cm)、および書き込まれているデータ量に関係なく、単に最内周の一定の位置へ常に移動させて読み始めればよいので、メカ的にも設計が楽であり、全てCenter Startになっているのです。ちなみにCDは、トレースの線速度が一定で、規格によりそれは1.2~1.4m/秒と決められており、標準サイズの12cmのCDでは最内周で約459回転/分、最外周で約198回転/分で、回転の角速度は常に連続的に変化します。
 当初のパテの典型的な縦振動型のRim Startの円盤レコードの写真を次に示します。実測してみたところ、直径は29.5cm、厚みは2.5mmでした。パテ・レコードの直径は他にも色々とあり、直径がなんと50cmのレコード(回転数は130~140回転/分)もありました。当初のパテ・レコードの再生音は雄鶏の叫び声のようなけたたましい音でしたので、マークは後に示すように雄鶏が鳴いている『鳴き雄鶏』のデザインになったのだそうです。SP、EP、LPの各レコードは、広く普及し、なじみ深くて一般にもよく知られており、どこの家庭にもあったかと思いますが、パテのレコードは、Edison Diamond Discと同様に、マニアックでレア度は高くて珍しいものであり、現在のレコードマニアでも、これらを普段からよく聴いている人は、非常に少ないのではないかと思います。


パテ・レコードの実例で、この面には『メンデルスゾーンの結婚行進曲』が入っている
この典型的な縦振動型のパテ・レコードの直径は29.5cmで厚みは2.5mm
表面を指で軽く撫でると現在のLP盤と比べてザラザラ度が高い


 さらにこのレコードに入っている『結婚行進曲』を再生したときの周波数積算グラフを次に示します。測定方法は、本稿のEdison Diamond Discの時と同様です。

パテの縦振動レコードのメンデルスゾーン作曲の『結婚行進曲』 (“MARCHE NUPTIALE” #5394)の再生周波数積算グラフであるが、100年近く前のレコードにしては、かなり良好な周波数再生パターンになっている。


 もう1枚の縦振動のパテ・レコードの実例を次に示します。ジャケットには、英文で5項目の注意書きがあり、その一つとして回転数は90~100回転/分で聴くようにと書いてあります。

 パテの縦振動盤の実例:VERDIのMARCHE D’AïDA (アイーダの行進)

         左の写真: ジャケットに入ったその縦振動盤レコード
         右の写真: そのレコードのレーベル面のアップ


 さらに、パテ社のトレードマークの『鳴き雄鶏』が大きくプリントされている縦振動レコードのジャケットとその中身のレコードの実例を次に示します。このレコードはRim Start盤です。

左の写真: ジャケットに大きく印刷されている向き合った2つの『鳴き雄鶏』のトレードマーク
      (下部には“AVIS IMPORTANT”: 『重要な通知』6項目がフランス語で書いてある)
右の写真: その中身のレコード盤のレーベル面上部に印刷されている赤い色の『鳴き雄鶏』




左の写真: ジャケットの”MARQUE DÉPOSÉE”(トレードマーク)の『鳴き雄鶏』の部分のアップ
      (雄鶏がレコード盤の上に乗って鳴いているデザイン)
右の写真: 赤い色の『鳴き雄鶏』が印刷されているレコード盤のレーベル面のアップ
      (“LES CATHÉDRALES”とは『大聖堂』のことで、男声ヴォーカルのレコード)


 パテは、その後SP盤、LP盤、EP盤も市販していましたので、それぞれの実例を次に示します。いずれも各種レコードのレーベル面のアップの写真です。レーベルや解説などは、全てフランス語で書いてありますので、辞書を引きながら読んで内容を理解しています。上述の『鳴き雄鶏』のトレードマークは、いずれもセンターホールの上部右寄りに○で囲ってプリントされています。


左の写真: パテのSP盤の実例でR. DRIGOのSEÉRÉNADE (セレナーデ・小夜曲)
中央の写真: パテのLP盤の実例でEDVARD GRIEGのPEER GYNT (ペール・ギュント)
右の写真: パテのEP盤の実例でCLAUDE DEBUSSYのPETITE SUITE (小組曲)


9.レコード音楽のデジタル化

 レコード全盛の頃には、熱狂的なレコード愛好家の中には、レコードは針が溝をこすって音が出る仕組みなのでレコード盤が痛み消耗するのを防ぐために、レコードを買ったらまずテープに録音し、以後そのレコードは使わずに大切に保管しておいて、その音を聴きたいときにはテープに録音したのを聴くようなことをしている人がいました。もっとすごい人は、特に気に入ったレコードなら、同じものを2枚買って、そのうちの1枚は保存用として全く使わずに残しておくのです。
 さらに現在のシニア層は、大量に買い集めたレコードの音をデジタル化してハードディスクに保存し、検索を容易にしたり、奥さんがうるさいので保管場所の省スペース化(レコードの処分 ⇒ 中古レコード屋が買ってくれる)をして、そろそろ身の回りの整理・片付けをして終活したいという、ちょっと寂しい高齢のレコードマニアの人もおられるようです。ちなみに、保存に最もメモリ容量が必要な非圧縮のWAVE(WEVともいう)形式でLPレコード1枚を保存しても550MB(メガバイト)くらいの容量であり、これをハードディスクに保存すれば、かなり入り非常に省スペースになります。今やテラ(T)単位のハードディスクが安価になり普及してきましたのでなおさらです。参考までにコンピュータの世界では、メガ(M)は2の20乗、ギガ(G)は2の30乗、テラ(T)は2の40乗のことです。
 もちろんレコードの音をデジタル化すれば、それをCDに焼いたり、スマホなどに直接コピーして歩きながらレコード音楽を聴くこともできます。しかし、そのデジタル化の方法がわからないので教えて欲しいとの声もよく聞きます。そこで、その方法を以下に書きますが、とても簡単にできますので、ぜひトライしてみてください。


必要な装置など

レコードプレイヤー: フォノイコライザーを内蔵しているものならより簡単
パソコン: マイク入力端子の付いているもの。付いてないようなパソコンは今やないかも。すぐ隣にある同形のイヤホン端子と接続を間違わないように。一般に『マイク入力端子』と呼ばれていても、決してマイク専用ではなく、マイクを含む『アナログ信号全般入力端子』と呼ぶべきものです。同様に、『イヤホン端子』も『アナログ信号出力端子』なのです。それに対して、USB端子は『デジタル信号専用入出力端子』です。
両者を直結するためのケーブル: レコードプレイヤーの出力端子(多くはRCAタイプのメス)とパソコンのマイク入力端子(ミニプラグのメス)を接続するためのケーブルで、下記の変換ソフトには付属していますし、オーディオショップなどに普通に売っています。ハイクラスのレコードプレイヤーの場合は、出力はトーンアームからのRCAのオスのケーブルになっていることが多いので、その場合には下に示す変換アダプターを経てパソコンに接続します。レコードプレイヤーにフォノイコライザーを内蔵していない(ハイクラスのものに多い)場合には、フォノイコライザーを経由して周波数補正(RIAA補正)した出力をパソコンに入力しないと高音域が強調され、さらに低音域が弱い音になってしまうのでダメです。これはレコード製造上の技術的・物理的な問題を解消するために、すべてのレコードに対して行われている規格なので、仕方ありません。また、MC型のカートリッジの場合には、出力電圧が低いので、昇圧トランスかプリアンプで出力電圧を上げる必要があるかと思います。

左の写真:普及型レコードプレイヤーの後部にある出力端子(RCAメス)
右の写真:パソコンのマイク入力端子(右側)とイヤホン出力端子(左側)で 両者の区別が
     わかりにくいので間違わないように。このマイク入力端子とレコードプレイヤーの
     出力端子を、すぐ下の左側の写真に示すようなケーブルで接続する。





左の写真:レコードプレイヤーとパソコンを接続するケーブルで両端にRCAピン・オス(左)と
     ミニプラグ・オス(右)が付いている。RCAピンをレコードプレイヤーに、ミニプラグを
     パソコンに、それぞれ接続する。
右の写真:RCAプラグのオスをパソコンに接続するための変換器(左側)とRCAプラグのオスを
     延長するためのコネクタ(右側)


アナログ ⇒ デジタル変換ソフト:市販品でもン千円で変えますし、インターネットから無料でダウンロードできるソフトもあるようです。ここでは一例として、この分野でよく知られた株式会社アイアールティの『レコードカセットデジタル変換』というソフトを使った実例を紹介します。これはインターネットショッピングで4千円台で買えますが、マニュアルの出来はよくありません。


実際のやり方

 レコードプレイヤーとパソコンを上述のようにケーブルで接続し、上記ソフトを立ち上げて音源を取り込むモードにしてからレコードをスタートさせます。取り込み中は、パソコンの画面にその音の周波数パターンがリアルタイムに表示されますし、パソコンで音をモニタできます。レコードが終われば終了ボタンを押して取り込みを終了します。こうして取り込んだ音を編集することもできます。その後、WAVE、MP3、WMAのうちの希望のデジタル形式でハードディスクなどに保存します。WAVEはデータ非圧縮の方式なので音が良いのですが、保存にメモリ容量が多く必要です。MP3などは圧縮していますので、逆のことが言えます。レコードの音は、レコード盤と針が接触しながら回転していますので、どうしても特有のノイズが出ます。そのようなノイズを消すソフトもあり、たとえば株式会社インターネットの”Sound it”がそれです。これはいくつかの種類があって定価は税込みで7350円から17640円まであります。私は、ずっと以前からこのソフトを、いろんな場面で愛用しており、私が以前に制作した現在市販中のCD『ストレス解消・健康増進の音シリーズ 京都・羅組奄(らくえん)の水琴窟の音色』も、このソフトでノイズを消去し、非常にクリアな透明感のある水琴窟の音に仕上げることができました。これはノイズリダクションソフトとしてはベストのものだと思います。


各種レコードとCDやハイレゾ音源の再生周波数帯域の比較

 これらの各音源をデジタル化してD/Aコンバータソフトとして有名な”foobar 2000”の波形View → Visualizations → Spectrumでチェックした時の再生音の波形をノーカットで以下に示します。このソフトで棒グラフとして表示される周波数帯域は50Hzから20KHzまでです。これらの波形は、再生中は常に大きく変化しますが、下に示すのは、できる限り広帯域のパターンの時の一瞬をポーズをかけてフリーズした波形の一例ですが、すぐ行き過ぎてしまい、丁度のところで止めるのはなかなか困難でした。また、カートリッジなどによってもこのパターンは多少異なるかと思います。これらのパターンからだけでは、大まかなことしか言えませんが、再生周波数帯域の比較をしてみてください。ただし言うまでもありませんが、この再生周波数パターンだけで音の良し悪しの判断はできません。



★エジソンのシリンダーレコードとそれの周波数モニタ結果の一例

左の写真:左端はシリンダーレコードのケース、中央はその蓋、右端はレコード本体
     (100年以上前のもの)
右の写真:シリンダーの上面に曲名などが刻印されている。
     これは”YOU CAN’T MAKE ME STOP LOVING YOU”という曲で伴奏付きの
     女性ヴォーカルのレコード。この音の周波数スペクトルの一例を次に示す。
     この場合のみ、高性能マイクをエジソン蓄音機のラッパのすぐ前に設置し、
     その音を直接パソコンに取り込んで処理したもの。


横軸は対数目盛の周波数(Hz)で縦軸は音圧(dB)。以下同様
(この再生周波数帯域は非常に狭く、特に低域が出ていない)



★SPレコードとそれの周波数モニタ結果の一例

左の写真:かなり古いSPレコード。Leopold Stokowski指揮Philadelphia Orchestra演奏の
     TschaikowskyのNutcracker 『くるみ割り人形』のレコード3枚セットの
     ボックスの外観。
右の写真:そのレコードの1枚。この音の周波数スペクトルの一例を次に示す。




★ドーナッツレコードとそれの周波数モニタ結果の一例

左の写真:都はるみが歌う『琵琶湖周航の歌』などが入ったドーナッツ盤レコードのジャケット
右の写真:そのレコード。この『琵琶湖周航の歌』の周波数スペクトルの一例を次に示す。




★LPレコードとそれの周波数モニタ結果の一例

左の写真:モーツァルトのフルート協奏曲のLPレコードのジャケット(ドイツ直輸入盤)
右の写真:そのレコード。この音の周波数スペクトルの一例を次に示す。




★CDとそれの周波数モニタ結果の一例

2010年12月にニューヨークのカーネギーホールで行われた小澤征爾指揮のサイトウ記念オーケストラが演奏するブラームスの交響曲第1番の実況録音版CDのジャケットとCD (2600円)。この音の周波数スペクトルの一例を次に示す。




★ダウンロードしたハイレゾ音源とそれの周波数モニタ結果の一例

上記の小澤征爾のコンサートの実況録音の曲をハイレゾで入手が可能であり、それを自分のパソコンにダウンロードしているところ (3000円)。この音の周波数スペクトルの一例を次に示す。


さすがハイレゾで、非常にワイドレンジなのがわかる
(ただし20KHzは一度も検出されなかった)


上記と同一の各種音源を『スペクトラムアナライザ』で分析した積算グラフ

 上記と全く同じ音源(WAVファイル)を『スペクトラムアナライザ』で分析し、再生周波数のグラフを積算して平均化したパターンを以下に示します。上記の棒グラフは、ある一瞬の時のみの周波数分布にすぎませんが、下記の『スペクトラムアナライザ』で分析したパターンは、測定した時間全体の中で、どのような周波数の音が全て出ているかを表示していますので、これを見れば、曲全体などで再生されているおおよその全周波数範囲が一目瞭然です。短い曲(エジソンのシリンダーレコードとドーナッツ盤)は全曲を、それ以外は最初の5分間くらいを分析したグラフであり、横軸が周波数で、その表示されているグラフの左端が10Hz、右端が20000Hzで、横軸は対数目盛になっています。20000Hz以上は、たとえ再生されていたとしても、このグラフには表示されませんが、下記の各グラフで20000Hz近くのパターンを見る限り、20000Hz以上はいずれも出ていないと予想されます。縦軸は音の大きさを表す音圧で、dB(デシベル)単位で表示されています。


★上記のエジソンのシリンダーレコードの再生周波数積算グラフ

高音域は5000Hzまでしか出ていない
約150Hz以下の幅広い山は音楽ではなくて低周波ノイズだと思われる



★上記のSPレコードの周波数積算グラフ

高音域は7千数百ヘルツまで出ている


★上記のドーナッツレコードの再生周波数積算グラフ

高音域は7千数百ヘルツまで出ている


★上記のLPレコードの再生周波数積算グラフ

高音域は7000Hzくらいまで出ている


★上記のCD (次のハイレゾ音源と全く同じ内容) の再生周波数積算グラフ

高音域は1万数千ヘルツまで出ている


★上記のハイレゾ音源の再生周波数積算グラフ

高音域は2万ヘルツ近くまで出ているがハイレゾの場合のみ45Hz以下の音が全く出ていないのはなぜか不明。他のハイレゾ音源でも同様。あまりにも見事に45Hz以下が完全にカットされているので、これは45Hzのローカット・デジタルフィルターがかかっているような結果であり、なぜこのようになっているのかについて今後検討し、その理由がわかればこのホームページで報告します。ハイレゾは高音域ばかり注目されているが、このような低音域のカットは大いに問題である。


最近のクラシックレコード事情

 クラシックレコードで世界的に最も歴史があり定評あるレーベルは『ドイツ・グラモフォン』です。この会社は、円盤レコードの発明者として有名な上述のベルリナーが1898年に、生まれ故郷のドイツ・ハノーファーで創設しました。なんと120年近くも前のことであり、世界最古のクラシック音楽レーベルです。1929年には年間売上枚数がなんと1,000万枚を超えています。ジャケット上部のタイトル部分が黄色いのが特徴で、『イエロー・レーベル』とも呼ばれています。最近のものは、レコード盤が少し厚くなり(ノギスで実測したところ、以前のものは厚さ:1.2mmで今回のは2.3mm)、レコードを買った人はその内容と全く同じものがデジタルデータとして無料でダウンロードすることができ、今のデジタル時代にふさわしい新しいサービスだと思います。それらのことは、下に写真を示すようなジャケットの外側の丸いシールに書いてあります。レコードのジャケットの中には、小さなVoucher(サービス券)が入っており、そこにはダウンロードに必要なURLと各レコードに固有のキーコードが記載されておりますので、自分の個人情報を登録後に簡単にダウンロードすることができます。上述のようにして自分でレコードからデジタルデータに変換することはできますが、レコードから自分でやりますと、スタートのタイミングが難しく、さらにスクラッチノイズなども入り、完全にノイズフリーにはできませんので、ドイツ・グラモフォン社の無料デジタルデータ配信サービスは、とても便利ですが、レコードを買わないとできません。このようなレコードの実例を次に示します。これはチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番で、リヒターのピアノ、カラヤン指揮のウィーンフィルの演奏のものです。録音されたのは1962年ですが、最近新たに再プレスされた直輸入盤で、日本語はどこにも書いてありません。入手価格は3434円でした。

写真左: 最近のドイツ・グラモフォンの30cm LPレコードの実例で、ジャケットの左下の
    丸いシールに注目。
写真中央: ジャケットの左下に貼ってあるシールで、レコード盤が重く(厚く)なった
      オーディオマニア用であることと、ダウンロードできることが書いてある。
写真右: ダウンロードに必要なURLと9桁のキーコード(ここでは白抜きにして消してある)などが
     記載されているVoucherで、ジャケット内に封入されている。


10.最新のハイエンドレコード再生システムの紹介

 普通では目にすることがないような特別にハイレベルなものが、どの世界にもあります。そのようなハイエンドの特別のレコード再生装置の各パーツの代表的なものを紹介しておきます。いずれも最新の製品ですが、類似のものは、他にもいくつかあります。これらを組み合わせただけではレコードを聴くことはできず、さらにフォノイコライザー、アンプ、スピーカーと接続しないといけませんが、このようなハイエンドのプレイヤーシステムと組むのですから、それにふさわしい非常にハイレベルのものが必要になり、相当の予算が必要で、オーディオマニアの道楽の行き着くところです。


★ターンテーブル

TRANSROTOR社(1971年創業のドイツの会社)の
最上位レコードプレイヤー”ARTUS”(3モーター・ベルトドライブ・ターンテーブル)

 これは、全てが超ド級で、高さ120cm、重量220kg、価格21,000,000円(ただし、トーンアームやカートリッジを除く本体のみの価格)。これにふさわしいトーンアーム2本やカートリッジを装備すれば2千5百万円くらいになり、現行のレコードプレイヤーでは恐らく世界一高価なものと思われるが、すでに日本に数台あるとのこと。分解写真も見ましたが、いかにもドイツ製という非常に精密な作り・構造になっている素晴らしい芸術的作品。


★カートリッジ

TechDAS社製MC型 TDC01 Ti
チタンハウジングにピュアボロンカンチレバー採用の製品で約92万円(日本製)


★トーンアーム

ドイツのACOUSTICAL SYSTEMS社の”AXIOM satin 24ct gold finish tonearm”
“analog Grand Prix 2015”を受賞している最新の名品で税別価格は2,300,000円


11.眼でも聴くレコード再生音楽

 レコードは耳で聴くのはもちろんですが、レコード盤自体や再生装置などを眼で見て楽しむことができ、聴覚のみでなく視覚からも癒されるので、見て楽しい、聴いてさらに楽しい素晴らしいものです。レコード再生時で視覚の関与の要点は以下のようです。
  1. ジャケットを見て楽しむ
  2. レコード盤を見て楽しむ
  3. 古い木製家具のようなインテリアにもなる装置を見て楽しむ
  4. 回っているレコード盤の動きを見て楽しむ
  5. レコード盤からピックアップが音を拾っているのを見て楽しむ

 以上のようなことは、最新・最先端のデジタルオーディオシステムである『ハイレゾ』とは無縁の世界であり、『ハイレゾ』は、無形の見ることのできない、ただ聴くだけのデジタルデータがICの中にあるのみです。なので、レコード音楽は ”Visible Music”であり、ハイレゾは見ることのできない ”Invisible Music” または “Stealth Music”と言えます。


おわりに

 以上のように、レコード再生システムは、実にピンからキリまであり、最低限わずか1万円の予算でもレコード音楽を楽しむことができます。シニア層には昔懐かしいリバイバルのレコードの音を楽しんでいただき、若者にはハイレゾなどのクリア過ぎる無味乾燥のデジタル音をイヤホンで聴き飽きた耳に、今までとは別世界のノスタルジックでスローライフなレコード再生音を聴いて癒されてください。
 何でも進化し過ぎると、また元に戻りたくなることがあるもので、それを『ノスタルジック・リターン』と呼ぶことにします。再生音楽の進化の過程でもそうで、『円筒形レコード → 円盤型レコード → CD → ブルーレイディスク → ハイレゾ』と、この130年くらいの間に飛躍的に進化しましたが、時々レコードを聴きたくなります。私は、この全てをやっておりますので、いつでもどれでもすぐにやれます。総合的に見ると最も簡便なのはCDですが、たまには原点に戻ってエジソンの電球の明かりの下で、エジソンの円筒形レコードをエジソン蓄音機で、ゼンマイを巻いてから聴くことがあります。そして偉大なる発明王に思いを馳せるのもなかなかいいものです。
 最後に示すのは、最新・最先端のハイレゾシステムの一例で、FLAC形式のファイルになっているハイレゾソフトのメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番を購入・ダウンロードし、再生して実験している時の様子ですが、実験的に聴く以外には、味も素っ気もないこのようなもので、じっくりと音楽を楽しもうという気は全くしません。電車の中など、近くにいる他人に迷惑をかけてはいけないような場合を除き、自宅などでは、音楽はイヤホンやヘッドホンで聴くべきではありません。音源は生のコンサートと同様に、自分の体よりも前にあるべきですし、残響などは自分の体の外側の周囲にあるべきです。現在、イヤホンやヘッドホンが非常に話題になっていますが、イヤホン音楽のように頭蓋骨の中で各楽器が鳴っているようなことは現実には全くあり得ず、そのようなのは不自然でとても違和感がありますし、長年そのようなことをし続けていると、耳や脳の機能がおかしくなるのではないかと心配です。特に家の中でもイヤホンで聴き続けるのは避けるべきです。
 ハイレゾの目的である生の音に少しでも近づけて臨場感を出したいのであれば、イヤホンは問題外であり、3次元360度自分の体の外から立体的に音が聴こえる8.1チャンネルとかのオーディオシステムで再生することです。私は実際にこれを自宅で10年以上も前からしています。このような私のシステムは、16Hzから12万Hzの音まで再生可能で、ものすごい音がします。たとえばパイプオルガンの低音などは床が振動し、足の裏でも音を体感できます。少しでも生の音に近付けたいのであれば、ハイレゾの重要な項目の一つである無理やり高音域を伸ばしたりするのではなく、生の音楽とは程遠い頭蓋骨の中で各楽器が鳴るような音楽の聴き方を止めるべきです。これだけで生の音楽に非常に近付きます。イヤホンで大きな音で長年聴き続けていると、高音性難聴になったり交通事故に遭遇する可能性が高まるので、本当に要注意です。
 ハイレゾに関しては、私のホームページの別項にある拙稿
 (http://hiroshi-t.com/high-resolution.html)を参照してください。

iPad にDAコンバータと超高性能イヤホンを接続したハイレゾシステム
実験用としてたまに聴くのみで、オーディオシステムとしては何の魅力もない。



以下にハイレゾの問題点を書いておきます。

生のコンサートの様子

自分の前方遠くに各音源が左右に広がっており、残響は自分の周囲から聴こえる
(白い服を着た人物は合成写真。以下同様。)


 音楽は、何といっても生が最高です。臨場感、迫力、スケールなどが再生音楽とは全く違います。何しろ自分の目の前に本物の演奏家がいるのですから。しかし、生は好きな時にいつでも、どこでも聴けるわけではなく、予算の都合もありますので、再生音楽がどうしても必要になってきます。そこで、たとえば下記の例のようなオーディオ装置を利用することになります。


生演奏をDVDに収録したものを自宅で8.1ChのAV装置で再生した場合

生演奏に近い状態になり音源の位置や残響などで特に違和感はない


 このすぐ上に示したのは、フル装備のAVシステムの一部で、8.1Ch+2になっており、映像や音響の研究によく使っております。各スピーカーの配置図は以下のようです。

 この他に私が実際に使っているオーディオシステムは、次のようです。
① 5.1Chを3セット
② 2Chを3セット
(このうちの1セットはメインのもので、レコード → 真空管フォノイコライザー → 300Bの真空管アンプ → タンノイの大型スピーカーが中心)
③ ハイレゾを5セット
 ①と②のそれぞれのうちの1セットは、大学の私の部屋にあり、自分が単純に音楽を楽しむためではなくて、皆さんが音による癒し・ストレス解消で健康増進をするための研究に使用しております。


その音源をヘッドホンで聴いた場合

全音源が頭蓋骨の中で鳴っていて非常に違和感があり耳や脳に異常が起こりそう


 大きな音量でヘッドホンやイヤホンで長期間聴き続けていると、自己防衛のためか内耳にある音を脳に伝える有毛細胞が徐々に破壊されて『高音性難聴』になり、もはや元に戻すことはできません。これは老化に伴っても確実に起こる現象で、次第に可聴上限周波数が低下していき、中高年者になると2万ヘルツの音が聴こえる人は皆無で、よくてもせいぜい1.6万ヘルツ程度までしか聴こえません。大学生多数の実測結果でも、たとえ音圧をかなり上げても、2万ヘルツまで聴こえる人はごくわずかでした。ヘッドホンやイヤホンで大きな音で長く聴くほど『高音性難聴』は早く発症するので、特に現代の若者は十分に注意する必要があります。私の現在の本業である生活習慣病の予防対策と同様で、発症してからでは手遅れで、若い時から注意して予防をしないといけないのです。ハイレゾで高音域をより延ばした音にしたいのに、老化による不可避の『高音性難聴』別名『老人性難聴』になるより前に、若年層のうちから、より早くに高音域が聴こえなくなるようなことを自分でわざわざしているのは、ハイレゾの目的の一つである高音域を伸ばしたいのと大きな矛盾が生じ、正に何をしていることか、よくわかりません。私はいつも若い学生と話しているので、色んな事情で止むを得ない面(特に経済的理由と住宅事情)があるのは認めますが。これはハイレゾ自体には何も問題はなく、どんな種類の音でもヘッドホンやイヤホンで大きな音量で聴くこと自体に問題があるのです。しかし、オーディオメーカーや販売店の販売戦略のために、現状ではハイレゾは小型の装置(特にポータブル装置)でヘッドホンやイヤホンで聴くのが標準であるかのようなことになってしまっており、そこに問題があります。ハイレゾ音源を高性能なオーディオ装置で、自分の前方にあるスピーカーから聴けば素晴らしいですし、各楽器の定位がより生に近いものになります。これが本当のハイレゾのあるべき姿です。
 私のホームページの別項にあるハイレゾの原稿も参照してください。



【追記: レコード音楽や各種レコード盤の特徴とニューヨーク事情】

★★レコード音楽の特徴

 古くからあるレコード(アナログ)音楽は、最近のデジタル音楽と比較して下記のような特徴があります。
 アナログ音楽は、厚み、深み、味、暖か味のある人間的な自然の音で、数値データを気にしない、おおらかな世界であり、感性を高め癒しになる音楽で、手間の掛かるものであるのに対して、デジタル音楽は、無味乾燥、蒸留水的、安直簡便、手を加えすぎた人工的な無形の音であり、数値データを気にし過ぎの神経質な音の世界であるとも言えるでしょう。アナログは再生装置やジャケットの見た目、少し面倒ですがその操作の楽しみ、出てくる音の質などシステム全体として、とても癒されますが、凝りだすとレコードの収納や装置の設置などに、かなり広いスペースが必要となります。ちなみに、30cmのLPレコードの場合、100枚をジャケットに入れたまま立てて横に並べると約35cmの幅になり、その総重量は約32kgにもなります。
 ストレス過多の現代こそ、健康増進のためにアナログをやって癒されないといけませんが、逆に現代こそそれにふさわしくない要因があります。なにしろ、ますます短小軽薄が進行している時代だからです。デジタルならスマホとイヤホンだけでもやれて、これで音楽を聴くこと自体は無料でも可能であり、しかもポケットに入る超小型サイズなのです。現代の若者は、このような安直簡便なものしかやらないのは残念に思います。
 アナログ音楽を聴く時は、生の演奏会と同様に、音に没頭して純粋にしみますので、そのMusic Enjoyer的な聴き方こそ本当の音楽と言えますが、特にハイレゾのようなデジタル音楽を聴く時は、高音の伸びがどうとか、ビットレートサンプリング周波数の数値による音の違いの比較ばかりしていて、真にしまないで音の解析・分析・評価などをしているようなMusic Analyzer的な聴き方をする例が多いようです。もっとも、それもオーディオの楽しみ方の一つとも言えますので、何をしようと各自の自由ですが。


★★各種レコードの特徴
★LP盤

 レコードの中では最も新しい33.3回転のもので、クラシック音楽などは直径30cmの円盤に収録されており、裏表両面で約1時間の録音が可能であり、現在でも新譜が市販され続けておりますし、中古も市場に非常に大量にあり、音質的にも問題なく、現在のオーディオとして十分に実用になる現役のレコードです。レコードはCDのように2万ヘルツ以上の音が完全にカットしてあるというようなことはなくてノーカットのためか、特に最近のLPレコードの音は、上質の装置で聴くと高音域がかなり伸びていてクリアで、自然な良い音がします。レコードを再生するための操作が面倒だと言う人もおりますが、逆にそれだからこそレコードは現代人に必要なスローライフに適しており、これにはまると非常に楽しいものです。ぜひ体験してみてください。
 以前には、同じ33.3回転でペラペラのソノシートと呼ばれていた17cmくらいの直径で赤い色などに着色された透明のレコードもあり、本の付録などによく使われているようなものまでありました。アメリカでは、30cmの固いレコードでも、カラフルで透明なものがたくさん出ており、今回、買いました。



★ソノシート

左は研究補助員の手で、右は白衣を着てソノシートを曲げて持つ筆者 (大学にて)

 ソノシート(sonosheet)とは元々は朝日新聞社の系列の朝日ソノラマ社の登録商標である非常に薄いレコードの名称ですが、一般名としても広く使われています。”sono”はラテン語の”sonus”から由来しており、”sonus”とは、ラテン語で『音』を表す単語です。英語の一般名はFlexi Discと言います。これは写真に示すように、EPサイズ(直径17cm)のものが一般的ですが、それよりも大きいサイズのものや小さいサイズのものも少しありました。ソノシートは、容易に曲げることができるペラペラの塩化ビニールでできており、ノギスでその厚みを実測すると0.4mm程度しかなく、なぜか赤や青色などに着色されていて透明なものが多いようです。こんなに薄いソノシートなのに、音は片面のみでなく、両面に入っているのもあります。レコードで最も厚いのがEdison Diamond Discで約6mmもあり、ソノシートの15倍くらいも厚いのです。中高年層によるレコードへのノスタルジック・リターンや味も素っ気も実体もないデジタルオーディオからの逃避行動か、今やレコードの人気は急上昇で、日に日にヒートアップしてきており、レコード音楽に関する新刊書籍も毎週のように次々と発売されていて、見つけたら全て購入しておりますが、私の以前の予想をはるかに超えるほどに『今やレコードはかなり熱くなってきました。Edison Diamond Discもかなり厚いですが!』 いよいよレコードブームの到来の予感がしてきました。これは日本のみでなくアメリカでも類似のようです。先日(2015年3月)、私の家に遊びに来た親友のアメリカ人家族3人(父親と息子の職業はすごい+母親)も言っておりました。彼らはアンティークの蓄音機やレコードに非常に興味を持っていて、珍品の100年前のアメリカ製のEdison Diamond Discを聴いて、とても感動していましたし、昨年の孫へのクリスマスプレゼントは、なんとレコードとプレイヤーだったそうです。
 ここで、2015年3月中旬に購入した、この原稿の執筆時点で最新のレコードに関する雑誌の実例を紹介します。この3冊は、いずれも発行日が来月の1日などになっています。今やこれに類する本が毎週のように次々と出版されており、現在のレコードの人気度がよくわかります。

2015年3月中旬に市販された最新のレコードに関する雑誌の実例
現在はレコードブームでこのような本が毎週のように出版されている
右端の本はレコードとハイレゾの比較で現在にぴったりの内容


 ところで、そもそもソノシートの原型は、フランスのS.A.I.P.社が1958年に開発したものですが、その年の10月にはフランスで『ソノプレス』という会社が設立されて、
”sonorama”というソノシート付の雑誌が発売されました。翌年には日本で初めてのソノシート(ただし、この会社では『フォノシート』と呼んでおりました)付きの『歌う雑誌KODAMA』がコダマプレス社から1959年11月に日本初として発売されました。続いて同年12月には朝日ソノプレス社(後の朝日ソノラマ社)はフランスのソノプレス社と提携して、
”sonorama”と形態が瓜二つの雑誌であるソノシート付きの『月刊朝日ソノラマ』という音の出る雑誌が刊行されて話題になりました。その創刊号の実物の写真を下に示します。写真をよく見ればわかりますが、元祖の”sonorama”と同様に、本の中央に裏表紙まで貫通する小さな穴が開いており、この穴は、本ごとレコードプレイヤーのセンタースピンドルにセットして、その本に付属し固定されているソノシートを、なんと本と共に回して音を聴くという現在のレコードでは全く考えられない大胆な発想のものです。『月刊朝日ソノラマ』は、しばらくこのような形式でしたが、その後はソノシートは本に固定せずにビニール袋に入っていて、そこから取り出してソノシートだけをレコードプレイヤーにセットして音を聴くような形式になりました。そして1973年に第172号で休刊となりました。


左の写真: 朝日ソノラマ創刊号 (昭和34年12月1日発行 ソノシート6枚付きで360円)
      本の中央に裏表紙まで貫通している穴があるのに注目!
右の写真: それを本と共にレコードプレイヤーで回転して再生している様子
     (ソノシートは乳白色・半透明で右端が本に固定されていて取りはずせない装丁) 


朝日ソノラマ『鉄腕アトム』のソノシート (昭和39年5月15日発行 両面ソノシート1枚付きで280円) この主題歌全曲の周波数分析を行い積算グラフを求めた結果が次の写真 


上記の朝日ソノラマ『鉄腕アトム』のソノシートの中に収録されている『鉄腕アトム主題歌』の全曲の周波数積算グラフ (上記の方法で測定)


ソノシートのいろいろな実例

左の写真: 百五銀行行歌
     (創立85周年記念に昭和38年制定 昭和39年6月吹込み 関係者に無料配布) 
      この銀行は本店が三重県津市にあり、多彩な芸術家の川喜田半泥子が長年頭取を
      していたことで有名。
右の写真: 『百万人の西部劇音楽』
      (発売時期の記載なし ソルレコード㈱製作・販売 ソノシート4枚付きで430円) 


左の写真: 朝日ソノラマ『ケネディ大統領演説集』
      (昭和39年3月16日発行 両面ソノシート4枚付きで400円)
右の写真: 東京オリンピック記念の朝日ソノラマ 『オリンピックの歌』
      (昭和39年9月15日発行 両面ソノシート1枚付きで400円
      このレコードは直径21.5cmと大判)

 当時は、普通のレコードはとても高価で、LP盤だと普通のサラリーマンの月給の十分の一くらいもしました。それに比べるとソノシートは買いやすい値段でしたので広く普及し、雑誌(特に子供用)の付録などにも広く使われました。現代はCDがそのような役目を果たしています。私もその当時にソノシートで遊んでいた古き良き時代のことを思い出して、とても懐かしく思います。残念ながら時の流れで、ソノシート類は2005年にすべて製造終了となりました。それまで製造を一手に行っていた東洋化成が製造終了にしたために、以降は製造不可となったためです。
 ソノシートは、安価で子供でも手軽に遊べるという利点がありましたが、その反面、耐久性と性能に問題があり、おもちゃ的でオーディオ用には向きませんが、レコードの普及など、それなりの存在意義は十分にあったと思います。中高年には昔懐かしいソノシートですが、これも今の若者は見たことも聴いたこともない珍しいものだと思います。

【以上の『ソノシートについて』の原稿は、2015年3月中旬から執筆を開始し、同下旬にホームページに追加したものです。】


★ドーナツ盤

 元々はジュークボックス用に開発されたレコードで、直径は17.5cmで回転数は45回転です。EP(Extended Playの略)盤という別名もあります。中央の穴のサイズが直径3.8cmと大きく、見た目がドーナツのようなので、ドーナツ盤と呼ばれています。中央の穴が大きいので、アダプタを介してレコードプレイヤーにセットします。日本では歌謡曲が裏表に各1曲収録されていたものが多くありました。収録時間が短いこともあり、オーディオマニアは、このタイプのレコードはあまり利用しません。


★SP盤

 上述のエジソンのシリンダーレコードの直後から1950年代後半まで生産されたもので、直径は25cmと30cmのものがあります。回転数は78回転で、全種類のレコード中で最速です。このレコードを再生するには、上記のようなSP盤専用の蓄音機か、現在のレコードプレイヤーで78回転が可能なものにSP盤専用のカートリッジをセットしないと聴けません。SP盤専用の蓄音機の場合は、鉄製、竹製、あるいはサボテンの針製の針を頻繁に交換する必要があります。竹やサボテンの針の場合には、専用の工具を使って自分で削って先を尖らせて使います。SP盤の音質はあまり良くありませんが、これしかない古い曲の入ったレコードも多く、そのような曲を聴きたければ、このレコードが必須になります。
 SP盤は、シニア層には、とても懐かしいものだと思います。その昔、幼稚園や小学校の『学芸会』の時などに、先生がSPレコードの音楽をよくかけてくれました。動力のゼンマイが緩んでくるとスローで低音の変な音になり、またネジを巻くと正常な音に戻るのは、シニア層のどなたも覚えておられることでしょう。


★エジソンのシリンダーレコード

 再生可能時間が当初のものは2分で、その後4分のものも発売になりましたが、それでも短く、しかも現在のオーディオと比較すると音質が良くないのと、数が少ししか現存していないので、とても実用にはなりません。しかし、これこそオーディオの原点で、歴史的文化遺産でもあり、上記のエジソン蓄音機と共にオリジナルの物はオーディオ界の重要文化財的な存在でしょう。レコードの原点のこの音を実際に聴いたことがないと、ハイレベルのレコードマニアとは言えません。この蓄音機は、上に写真を示すように、インテリアとしても素晴らしく、オーディオルームに飾って眺めてエジソンの偉業に思いを馳せ、古き良き時代を偲びながらLPレコードを聴くのも良いでしょう。シリンダーレコードのちょっと邪道な使い方ですが、写真のように特に音楽関係の鉛筆を立てる鉛筆立てとして使うのはお洒落です。シリンダーの内側は、たとえ鉛筆で少しくらい傷を付けたとしても、音が刻まれているのは外側ですので、音には何ら影響ありません。
 話のタネに、100年以上も前のエジソン蓄音機とエジソンのシリンダーレコードを新たに入手して音楽を聴いてみようというのは、色んな点でとても困難を伴いますので、あきらめてください。どこの中古レコード屋にも売っておりません。

エジソンレコードを鉛筆立てにして音楽関係の鉛筆を立てた例

鉛筆の購入先
 ◎左:ルイ・アームストロング博物館
 ◎中央:ジュリアード・スクール
  (注:なぜか日本では『ジュリアード音楽院』と呼んでいるが、それは正しくない。
     英語の正式名称は単に”The Juilliard School”であり、現在は、音楽、舞踏、
     演劇の3部門から成っていて、大学名に『音楽』という文字はどこにも入ってい
     ない。ちなみに、私はここへ何回も訪れている。)
 ◎右:ザルツブルク(木製のヴァイオリンが上についている)


★★ニューヨークのレコード屋とレコード事情など

 ニューヨークには非常に多くのレコード屋があり、ニューヨークでもレコードは結構人気のメディアですが、私が見つけた店やニューヨーカーの親友に教えてもらった店の中から、実際に今回行ってレコードを買った店などを紹介します。これらの店は、今回行った順に並べてありますが、その選択には特に意味はありません。レコードの他にCDやDVDも置いてある店もありますが、レコードを中心に以下に書きます。
”SECOND HAND ROSE MUSIC”という店にはクラシック音楽を中心に大量にぎっしりと棚に詰め込んで並んでいます。今回は『モーツァルト』や『プレスリー』のレコードを買いました。場所は、ユニオンスクエアの南側で、ニューヨークで一番大きな古本屋の”STRAND”のすぐ南西に位置しています。この店では、2012年12月に、ビートルズのかの有名な最後のアルバムである”ABBEY ROAD”のイギリス初版盤がショーウインドーに展示してあるのを見つけて、高価でしたが無理して買いました。このレコードについては、事情により私のホームページの中の『アナログ写真は存在しない!』の項の中に詳しく書いてありますので参照してください。これは、謎めいたジャケットの写真やレコード盤に入っている隠し曲など非常に奥が深い特別のレコードです。復刻版は日本で容易に入手できますし、私はそれも所有していますが、オリジナル盤とはいくつかの違いがあります。

SECOND HAND ROSE MUSICの外観と店内のレコード売り場の一部


”STRAND”は、古本屋ですが、少しレコードも売っています。今回は”THE CANNONBALL ADDERLEY SEXTET”のレコードを買いました。アメリカでは、レコードのことをメディアの分類上では”Vinyl”と呼びます。この発音は、日本式には『ビニール』ですが、アメリカ式では『バイヌル』のような発音をします。なので、売り場にはVinyl, CD, DVDのような分類表示がされています。どこの店でも”Vinyl”と表記してあり、決して”Record”とは言いません。余談ですが、日本で『ビニール袋』と呼んでいるものは、アメリカでは”plastic bag”であり、決して”vinyl bag”とは呼びません。この日米の差は、どうなっているのでしょうね。

STRANDの外観と店内のレコード売り場の一部


”BARNS & NOBLE” (『バンザンノーブル』と発音しニューヨーク市内に何店舗もある)は、エンパイアステートビルの北東で五番街に面した、全米一大きな書店チェーンで、そこの2階にレコードも売っています。ここは新品のみで、若者好みのレコードが多くあります。今回は”MILES DAVIS”のレコードを買いました。この店ではCDの方が多いのですが、現場でレコードを何枚か買っている二人のアメリカ人にインタビューしたところ、アメリカではレコードは人気があり、結構買っているそうです。CDはアメリカの皆さんはデジタルデータの形で直接ダウンロードしており、物としてのCDは買わないそうで、いずれなくなるだろうとの予想でしたが、それに反してレコードは消滅するどころか、まだまだ元気に生き延びるだろうとのことでした。これらの意見は、とても参考になります。日本では、すでにCDショップは売り場を縮小したり閉鎖したりしている店が続出しており、日本でもその傾向が出始めています。

BARNS & NOBLEの外観と店内のレコード売り場の一部


”GENERATION RECORDS”は、ワシントン広場の近くにあり、結構大きな店で、クラシック音楽はゼロで、品ぞろえはユニークです。今回は夜に行って、内容よりも装丁が非常に珍しいレコードを物珍しさだけで買いました。

GENERATION RECORDSの外観と店内のレコード売り場の一部


”OTHER MUSIC”は、アスター・プレイスにあり、かなりの量のレコードが並んでいますが、クラシック音楽はゼロで、若者好みの音楽が中心です。ここでは色々と3枚買いました。土曜日の昼過ぎに行ったところ、若者の客がたくさんいました。




OTHER MUSICの外観と店内のレコード売り場の一部


”URBAN OUTFITTER”は、ニューヨーク郊外のWhite Plains地区にあるWestchester Mallの中の洋服屋のような店ですが、ショーウインドーにはレコードとレコードプレイヤーも展示してあり、店の右手奥には新品のレコードが、ある程度の量並べてあります。今回は未開封新品の”Whitney Houston”のライブ2枚組を買いました。このレコードは、限定盤の薄紫色の透明な珍しい形態のものです。彼女の歌唱力は最高で素晴らしく、レコードの売り上げも群を抜いていますが、惜しくも2012年2月11日に48歳の若さで、ビバリーヒルズのホテルの浴槽で入浴中に麻薬が関係すると思われる心臓発作による溺死をしました。とても残念なことです。

URBAN OUTFITTERの外観と店内のレコード売り場の一部


”ACADEMY RECORDS & CDS” は、チェルシーにあり、クラシックとジャズが中心の中古レコード店で、奥の方にあるクラシックの品揃えは抜群です。ボックス物もたくさんあります。ここではフルトヴェングラー指揮のを3枚買いました。ちなみに、フルトヴェングラー(1886-1954)は、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団やバイロイト音楽祭の首席指揮者などを歴任した人で、歴代指揮者の中で最高レベルと言われている名指揮者です。さらに別の指揮者のモーツアルトを2枚買いましたが、そのうちの1枚は、ピアノコンチェルト23番(K488)と24番(K491)で、Wilhelm Kempffのピアノですが、私は彼の姪子さんと知り合いで、彼女はハイデルベルク大学医学部の先生をしていますが、日本で育ったために、日本人と区別が付かないくらいに日本語が超ペラペラです。そして日本語ワープロでプリントしたクリスマスカードをくれます。ドイツで彼女が推薦するKempffのCDを何枚か買ったことがあります。

ACADEMY RECORDS & CDSの外観と店内のレコード売り場の一部


”MUSIC INN”は、グリニッチ・ビレッジにあり、とてもユニークな店で、普段あまり見掛けないような弦の民族楽器をここで作っていて、中古レコードも少し置いてある一風変わった店です。ここでは欲しいレコードがなかったので何も買いませんでした。

MUSIC INNの外観と店内のレコード売り場の一部 


”BLEEKER STREET RECORDS”は、同じくグリニッチ・ビレッジにあり、広い店舗にロック、ジャズ、ブルースの中古レコードが多く並んでいます。壁には、天井まで、ぎっしりとレコードがディスプレイされています。ここでは”Bob Dylan”を買いました。この地区のレストランで昼食を食べたときにオーナーに聞いたところ、この付近では土日などに露店のレコード市がよく開催されるそうです。

BLEEKER STREET RECORDSの外観と店内のレコード売り場の一部


“WESTSIDER RECORDS”は、リンカーンセンターの北側で、地下鉄①②③の72丁目駅のすぐ西側にありますが、ショーウインドーには、音楽関係の本がディスプレイしてあるだけなので、中古レコード屋とは思わないかもわかりません。中へ入るとクラシックを中心に大量のレコードが並べてあります。この店は、①安価、②非常に大量にある、③店主がとても親切で愛想が良い、という三拍子揃っていますので、ニューヨークでクラシックの中古レコードを買う場合は、ぜひここへ行ってみてください。なにしろフルトヴェングラーの指揮するLPレコードだけでも100枚以上あります。今回は、そのフルトヴェングラー指揮のレコードばかりで、『モーツアルトのフィガロの結婚(3枚組)他、モーツアルトの曲2枚と、シューベルトの未完成』を買いました。

WESTSIDER RECORDSの外観と店内のレコード売り場の一部


”RECORD MART” は、地下鉄の42丁目-タイムズスクエア駅のコンコースにあり、改札内なのにレコードを多少売っています。しかし、ここには欲しいものがなかったので、何も買いませんでした。

RECORD MARTの外観と店内のレコード売り場の一部


 以上を総合すると、CDは今後激減して、いずれは消滅の危機にあるのに対して、レコードは根強いマニアがおり、今後もまだまだ細く長く生き続ける気配がします。日本ではレコードを買うのはシニア層が中心ですが、ニューヨークでは若者が中心のようです。今までにニューヨークのレコード店で見た客は、多くが若者でした。


★★ニューヨークで今回聴いた生演奏の音楽やショー

 レコード音楽も素晴らしいのですが、生演奏に勝てるメディアは絶対にありません。生が『音楽』で、それ以外は『再生音楽』と呼んで完全に区別すべきです。両者は全く別の世界のものですから。生ですと、弦・リード・声帯などの発音体の振動が空気の振動になり、それが直接に耳に届いて音として聴こえますが、再生音ですとスピーカーのコーン紙やヘッドホンのダイアフラムのプラスチック幕などの振動が音として聴こえているのであり、いくらがんばっても、いくら科学が進歩しても、たとえばピアノの弦の響きと寸分たがわずに、あらゆる点で100%全く同じ音を紙の振動板で出せるとは思えません。両者の素材が全く違いますから。さらに演奏家の生々しい息遣いや臨場感も生でないと絶対に出ません。これも音楽では非常に重要なことです。もっとも、生は生、再生音楽は再生音楽として、割り切って考えれば、別にどうってことはありません。別々の二つの世界のものを一つにしようとするからいけないだけのことです。私の親友に東京芸大卒で読売交響楽団のプロ奏者がいますが、40年くらい前に彼の鎌倉の自宅へ遊びに行った時に始めて彼のオーディオ装置を見て、質素なものだったので驚いたことがあります。なぜか聴くと、『オーディオ装置に凝ったってしょうがない。』でした。プロの演奏家は、再生音楽をそれほど高級でない装置で聴いても、本物の生の音にイコライズする特殊な能力を持っているようです。彼らは装置に凝らず、逆にアマチュアや音楽評論家は装置で楽しむ傾向があるように思います。オーディオ雑誌などを見ていても、毎号に特別豪華なオーディオルームの紹介のページがあり、それを見ると物凄い装置を持っているのは、プロの音楽家ではなくて、アマチュアの金持ばかりのようです。たとえば小澤征爾の家に、彼の実力にふさわしい物凄いオーディオ装置があるなんて聞いたことがありません。もっとも、公開していないだけで実際にはあるのかも知れませんが。プロの音楽家は、再生音楽をあまり重視していないように思います。
 生の音は本物の自然の音”Real Natural Raw Sound”であり、再生音は人工的な模造音”Artificial Imitated Sound”と言えます。別の分野で例えるなら、自然の本物の景色をその現場で直接見るのと、それをムービーに撮影したものを見るのに似ています。また、生花造花の関係にも似ています。生命の存在の有無(有機音楽無機音楽)の差とも言えます。たとえそっくりであっても、いずれも素材が全く違うので、たとえ限りなく近づいたとしても、永遠に両者はイコールにはならない漸近線の関係にあります。よって装置に大金を注ぎ込んで生の音に少しでも近づけようと、グレードアップをし続けるようなことをしても、いつまでたっても決して終着点・生とイコールの点には辿り着けません。たとえば生の弦の響きをコーン紙の響きで全く同一にしようとするのは無謀なチャレンジです。たとえば、カートリッジやスピーカーをいくつ変えても、全て異なった音が出ますが、それは取りも直さず全ての機器が生と全く同じ音を忠実に再生していないという明白で確実な証明になります。それよりも、日本はもちろんのこと世界中のコンサートホールで生の演奏会をなるべく多く聴くのが一番です。それこそ完全にイコールで生そのものですから。
 そんな訳で今回もニューヨークで、いくつか生の演奏会や生の伴奏を伴うショーなどを聴き・見に行きましたので、それらを簡単に紹介します。毎年ほぼ同じような感じですが、今回は珍しくカーネギーホールへは行きませんでした。滞在期間中にこれと言った公演がなかったからです。

”Christmas Spectacular” at Radio City Music Hall
 ニューヨークの年末恒例のショーです。子供から大人まで楽しめます。演奏も素晴らしいですが、3Dの映像も少し映写され、本物のラクダ2頭や羊6頭も舞台に出るのは驚きです。クリスマスムードいっぱいで、とても楽しい迫力あるショーです。
 
”Hansel and Gretel” at Metropolitan Opera House
 グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』のオペラです。

Metropolitan Opera Houseの外観とヘンゼルとグレーテルのプログラム


”The Bad Plus New Year’s Eve Special Jazz Live” at Village Vanguard
 毎年恒例の大みそかから元旦にかけての演奏会です。数年前まではMichal White Quartetの演奏でした。ジャズほど生が素晴らしい音楽はないのではと思います。ジャズは、元々は黒人の庶民的な音楽であり、本場のアメリカでは、大きなコンサートホールの高い舞台の上で演奏して、それを非常に多数ある横一列の長椅子のコンサートホールに整列して、かしこまって聴くような聴き方は普通はしません。アメリカでジャズを聴くときは、狭苦しくて薄きたないような雰囲気の会場に、粗末な小さなテーブルとその周りに2~4脚の椅子のセットがぎっしりと無造作に並んでおり、隣の人と体が接触することもよくあります。さらにアルコールを飲み、つまみなどを食べながら、音楽に合わせて体をスイングさせたりして、自ら音楽に没頭して楽しみながら気楽に聴きます。一番前の席ならば、なんと演奏家との距離は1メートルくらいです。ベースの低音が足の裏でも感じます。舞台はとても低いので、よけいに親近感が湧きます。休憩時間には、カウンターバーなどで演奏者と直接話すことも可能です。こうして上述のMichal Whiteさんとは知り合いになり、ついに私の名前を覚えてくれて親しくなりました。彼はなんと博士号を持っていて、ルイジアナ大学でスペイン語の非常勤講師もしているそうで、余計に話が弾みました。年越しライブの場合は、カウントダウンをして新年を迎えた瞬間に皆が大騒ぎをします。これこそ正に生演奏の醍醐味の頂点で聴衆参加型の音楽です。正装するなどして、かしこまって咳をこらえて静かに聴くクラシック音楽とは大違いです。

Village Vanguardの外観と内部の様子


元日を迎える前(左)と迎えた直後のどんちゃん騒ぎの様子(右)

”Michika Fukumori Jazz Piano Concert” at Arturo’s
 三重県伊賀市出身でニューヨーク在住のプロのジャズピアニストの福森道華さんの毎年恒例の元旦コンサートです。彼女とは以前からの知り合いで、毎年聴きに行きます。元旦以外にもよく公演しています。毎年8月ころに、日本でも公演します。ご主人はプロのギタリストです。

”Nutcracker” at David H. Koch Theater (or New York City Ballet)
 年末恒例の『くるみ割り人形』のバレーです。雪の降る中での踊りが特に素晴らしいです。日本では、年末恒例は『第九』ですが、なぜ『第九』なんでしょうね。




David H. Koch Theaterの外観と『くるみ割り人形』のプログラム

”Matilda” at Shubert Theatre
 生演奏を伴奏とする新しいブロードウェイミュージカルです。イギリスで大評判となり、数多くの賞を取っています。ブロードウェイでは、それを受けて開始されたばかりですが、今後大人気になることは必至だそうです。

”Kinky Boots” at Al Hirschfeld Theatre
 とても楽しくて美しいブロードウェイミュージカルです。

”Swan Lake” at Avery Fisher Hall
 ニューヨークフィルの現在の音楽監督を務めている日系二世でニューヨーク生まれのAlan Gilbertが指揮するニューヨークフィルの演奏です。公演の最初に彼のスピーチがありました。この会場は、リンカーンセンターにあるニューヨークフィルの本拠地です。この建物の向かい側にあるのが上記のDavid H. Koch Theaterで、左(西)隣にあるのが上記のMetropolitan Opera Houseです。Avery Fisher Hallと Metropolitan Opera Houseの間のすぐ奥(北側)にThe Juilliard Schoolがあります。この付近は『リンカーンセンター』と呼ばれている音楽関係の建物が密集している地区です。

Avery Fisher Hallの外観と音楽監督のAlan Gilbert


★★エジソンが世界で最初に映画を上映した場所

 ニューヨークの街を歩いていて偶然にもこの場所を見つけました。自然にその表示に眼が引き付けられましたので、これは虫の知らせのようです。エジソンの3大発明の一つに映写機がありますが、それを発明したのは1887年のことです。しかしここで敢えてto tell the truth的なことを書きますと、実はエジソンは非常に多くの発明をしたことで有名ですが、必ずしも彼が全くのゼロから発明したのではなくて、プロトタイプがすでに世の中にあったものを実際に使える段階に改良して実用化したとか、彼の部下が発明したのに彼が発明したことにしてあるというようなことが多々あるようです。ちなみに彼の3大発明品も全てそうで、前者に該当するのが蓄音機と電球で、後者に該当するのが映写機なのです。本当のことを知るとちょっと残念です。ともあれ、その映写機で最初に公衆に映画を見せた場所が、世界一大きなデパートと言われているmacy’s(店の正式名称は全て小文字)が現在ある場所(ミッドタウン)の一角にあったそうで、南側正面玄関の右側にこのデパートの銘板があり、そのすぐ上に『ここは1896年4月23日にエジソンが、”Vistascope”で世界で最初に映画を上映した場所』と書いた銘板もあるのを見つけました。下の写真を参照してください。今までに何回もこのデパートへ行っていたのに全く気付きませんでした。

macy’sデパートの南面の一部とそこにあるエジソンが最初に映写機で映画を上映した場所であることを示す銘板


【注】この追記の部分の原稿は、2014年の年末から2015年の年始に、ニューヨークのアパートに滞在している間に、忘れないうちにと思って現地で執筆したもので、完了したのは1月10日です。


レコード好きのアーティスト各氏のレコードに対するご意見の紹介

別冊ステレオサウンド 2015年1月29日 発行・発売 『アナログ音盤』からの抜粋

アナログ盤の音は心に染み込んできますね。 大島花子 (歌手)

歌の存在感や説得力がアナログ盤の音は圧倒的です。 
              伊藤ゴロー (ギタリスト・作編  曲家・プロデューサー)

アナログレコードは、ヒアリングとリスニングの違いを再認識させられる。 
                                   伊藤ゴロー

アナログ盤はまるで工芸品、作り手の個性が音になる。 
             角松敏生 (シンガーソングラ イター・音楽プロデューサー)

聴くほどに惚れ込むそのサウンドにCDでは感じられない熱量がある。 
                       伊藤隆剛 (ラ イター・エディター)

アナログ盤の音はスピーカーの後ろに誰かがいる。 湯浅 学 (音楽評論家)



最後のまとめとしての『レコード音楽賛辞』

★無色透明、無味乾燥、無響室での演奏のようなデジタル音楽。

★デジタル音楽は自動演奏のように生命感がなくて無機質で実体のないステルス音楽。

★音楽以外の雑音や雰囲気が全く感じられないという状況は生演奏にはあり得ず、どこでも生は人の気配などが必ずする。

★五感のすべてで楽しめるのがレコード音楽であるのに対してデジタル音楽は聴覚のみ。

★レコードのスクラッチノイズなどはレコードが生きている証しであり、加齢とともに増加する人のシワやシミと同じような自然に増えるものなので気にしない。100歳のレコードでも、我が家では現役。

★レコード、CD、DVD、BD、ハイレゾなどで、かなりのことをしてきたが、一番癒される音源は、やはりレコード。特に『レコード → MCカートリッジ → 真空管プリアンプ → WE300Bの真空管パワーアンプ → タンノイの大型スピーカー 』の組み合わせで聴く弦楽器の音色は最高で、音の厚みや濃さ、雰囲気などが明らかに違う。まるでヨーロッパの歴史ある有名なコンサートホールで聴いているよう。周波数特性などの物理的特性だけでは表せない『何か』が明らかに違う。人に親和性の高い音、脳にうまくマッチする音などが良い音のような気がする。私の専門分野の一つの『脳波』のα波とβ波の比率が関係するのかも。今後、この面からも検討してみたい。

★トータルで生演奏の雰囲気に一番近いのは、イヤホンで聴くハイレゾではなくて、大型スピーカーで聴くレコード音楽のように思う。成人の耳には全く聞こえない2万ヘルツ以上の超高音域の再生をしようと必死になることは無駄な努力。このことは実感している。
★いろんな面でゆとりのある音楽がレコード音楽であり、のんびりとレコードを聴くスローライフは、多忙でストレス過多の現代では最高の贅沢で至福の時間となり、健康にも良い。
★短小軽薄なデジタル音楽(特にイヤホンで聴くポータブル式)の逆が大型スピーカーで聴くレコード音楽であり、装置やレコードが大きくて重くて場所を取り、操作が面倒であるが、そのほうが存在感ややりがいがあって良い。高度な趣味や道楽の世界では、省スペースや利便性などは二の次。

★ちなみに、この原稿も古いレコードを聴きながら書いてます。

Viva Vinyl !


【お詫び】

 以上の『レコード音楽を楽しもう』の原稿は、入門者用にひととおりのものが完成して2014年12月にアップロードした後に、皆様からのリクエストがあって次第にマニアック度が増し、何回も原稿の追加や補足をしましたので、全体的に見るとストーリーの流れのスムーズさなどに問題があり、見にくくなっていることをお詫びします。 



 
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