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真空管アンプの出力管比べ

 真空管アンプの音は、一般的には滑らかで温かみがあり、特に年配のクラシック音楽ファンの中には、今でも熱烈な愛好家がたくさんおられます。しかし真空管アンプは、現在の若者に大人気のポータブル・デジタルオーディオとは対極の存在で、非常に大きくて重い(20〜30kgは普通)・消費電力が大きい・バイアス調整などが面倒・メンテナンスが大変など、問題点もたくさんありますが、真空管アンプの魔力に取り付かれたら泥沼です。もっとも、一般の人たちには、とても理解できない非常にマニアックな別世界のことでしょう。音楽を聴くこんな特殊な世界も現実に存在しますので、何かの参考にして下さい。
 真空管アンプですと、パワースイッチをオンにしても、真空管のヒーターが熱く・明るくなるまでの間は、たとえ音源を入力していてもフェードイン的に音が出てきて徐々に音が大きくなっていき、最終的にはボリュームで設定した音量になります。逆に電源をオフにしても、ヒーターが熱い少しの間は音が出続け、次第にフェードアウトして、ついには音が完全に消えます。これはまさにアナログの世界の典型例で、スイッチを切ったのに、まだ少しの間は音が出ているなど、初めての人には不思議な現象だと思います。また、出力管はとても熱くなり、たとえば211や845などのような大きなハイパワー管では特に熱く、まるで暖房機のようで、冬場なら歓迎ですが、真夏には暑くてやっておれません。真空管は白熱電球と同様に、ある程度の期間使用すると自然にフィラメントが切れますので交換しないといけませんが、今や入手がやや困難です。特に有名ブランドの名管は、とっくの昔に製造中止になっており、共産圏や中国などでは現在でも同等の規格品を何種類か細々と製造しているものがあり、それを入手するのが一番簡単ですが、マニアはやはりWestern Electric, RCA, GE, Telefunkenなどのブランドにこだわり、年配のマニアが当時から大切にストックしているブランド物の真空管を、頼み込んで苦労して入手したりしております。当然のことながら、プレミアが付いて高価です。マニアなら普通は、いつフィラメントが切れても、すぐに交換できるようにスペア管を用意しています。しかし、新品の真空管は、出荷前にメーカーでも少しはエージングをしておりますが、まだそれが十分ではなく、本来のいい音が出ないとされております。また、各社の同一型番の真空管を差し替えて、音の微妙な差を聞き比べるのもマニアのよくやることです。以上のようなことに興味のない普通の人が見たら、頭がおかしいのではないかと思うはずです。でも、趣味とは何でも、そんなものなんです。内容がハイレベルになるほど、普通の人には理解できず、とても付いて行けないことでしょうが、『蓼食う虫も好き好き!』なので、他人のことは構わずに放っておきましょう。しかし、何か一つのことに没頭できて、とことん極限までやれる人には、憧れます。
 真空管アンプで、音を増幅する最終段にある真空管が出力管で、これの種類によって音がかなり異なります。その前がドライバー段です。しかし、スピーカーによる音の違いの方がずっと大きいですが、小出力アンプだと100dB以上クラスの高能率のスピーカーが必要です。現在はソリッドステートで簡単にパワーが出せますので、そんなに高能率のスピーカーは必要なく、現行商品としては少ないかもわかりません。
 そこで、以下に代表的な出力管を、実際にアンプに装着されているままの状態でお示ししますので、参考にして下さい。ほとんどの方は、真空管アンプを今まで見たことがないかと思います。こんなものは、単なる年寄りのノスタルジー(乃廃る爺)に過ぎないと言われそうですが、長年愛用してきた者として、トータルで見て、真空管アンプはやはり素晴らしいと思います。実際に昔からやっている者でないと、その本当の良さはわかりませんが、真空管アンプを愛用しているのは一種のスローライフと言えます。しかし残念ながら真空管アンプは、消費電力が大きい、サイズも大きくて非常に重い、置き場所をとるなど、省エネ、短小軽薄、ポータビリティ重視の現代では、まさに時代の流れに反する絶滅危惧種の装置であることは間違いありません。しかし構造・配線が簡単なので、自作も可能で、筆者も何台か自作したことがあります。 

世界で最も定評あるアメリカWestern Electric社の300B(大きな2本)
300Bは『真空管の王様』と呼ばれている直熱3極管

 この真空管は最も音が良いと言われているもので、イギリス・タンノイのスピーカーと組み合わせて、ドイツ・グラモフォンのレコードでモーツァルトのヴァイオリン曲を聴くと、最高に至福の時が流れ、幸せいっぱいになります。しかも時々『プチプチ』というレコードの微細な傷やホコリとレコードプレイヤーのカートリッジの針が接触することで発生するスクラッチノイズの音も聞こえてきて、これは雑音皆無で音がクリアすぎるCDではありえないことで、『アナログレコード、ばんざい!』となります。


   箱の蓋を開けて中が見えるようにしたところ

 アメリカWestern Electric社のMatched Pairの300Bは、高価な抹茶茶碗のように、塗りの立派な箱の中に特性の揃ったペアー菅が2本(ステレオの左右用に各1本)入っており、保証書、説明書、実測データなど色々と同封されております。抹茶茶碗と違って、さすがに銘は付いておりませんが、箱書きのような刻印が箱の上の面に押されています。


各社の300Bの比較
左からWestern Electric, Cetron, 中国製で、いずれも全高は14cmくらい


世界で最も定評あるアメリカRCA社の2A3
2A3は『真空管の女王様』と呼ばれている直熱3極管
(昔のトーキー映画用のアンプによく使われたもので、
出力は小さいが高能率のスピーカーを駆動するには大丈夫)


比較的パワーの出るKT88(6550と互換性のある5極ビーム管)
ジャズやロックに向くとされていますがこの形が好きです。
これとJBLやアルテックのスピーカーと組み合わせると最高。


比較的パワーの出る6CA7(EL34と互換性のある5極ビーム管)
イタリア製のこのアンプは、片チャンネル2本、左右で計4本(奥の列)のプッシュプルなのでパワーは出ますが、歪の点でごくわずかに不利かも。

 最後に上記の各出力管の接続図を下に示しておきます。これは、真空管の内部構造とピン番号(真空管の下に出ている足で下図の?@〜?G)の関係を示すものです。各略号の意味は次のようです。F: Filament, P: Plate, G: Grid, H: Heater, NC: Not Connected。この図では300Bと2A3は同じですが、両者の特性は異なります。

300B   2A3  6CA7  KT88

上記の他にも4台の真空管アンプがありますが、本体が木のケースに入っていて外から中がよく見えないとか、撮影困難な場所に設置してあって、しかも重くてそれを容易には動かせないなどの理由で、今回はそれらの掲載を省略します。


優良参考書の紹介(2014年11月23日に追記)

 この分野に興味をお持ちの皆様にぜひ推薦したい参考書があります。ここに紹介しますのは、両方とも季刊の雑誌で、私は毎号買って読んでいますが、本当に素晴らしい内容ですので、真空管愛好家レコード愛好家の皆様にお勧めします。ぜひ読んでください。


『管球王国』

 株式会社 ステレオサウンド社発行、最新刊は第74巻で2014年10月20日発売、B5版の全210ページで定価は税込み2808円です。私はこの本を創刊号(1995年8月31日発売)からすべて買って持っています。誌名のとおり、真空管に関するさまざまな記事で溢れており、真空管愛好家の必読書です。この出版社は、オーディオ関係の素晴らしい本を次々と出版しており、オーディオ分野ではベストだと思います。この本の最新巻の表紙と内容・記事の一部の写真を次に示します。

 最新の第74巻の表紙 その内容の一部(左:300Bの聴き比べの記事) 


『analog』(季刊 アナログ)

 株式会社 音元発行、最新刊は第45巻で2014年10月20日発行、ほぼA4版の全226ページで定価は税込み1590円です。この本の内容は、アナログレコード盤自体の紹介から再生装置(カートリッジ、トーンアーム、ターンテーブルなど)の記事です。この本はレコード愛好家の必読書です。最新巻の表紙と内容・記事の一部の写真を次に示します。

 最新の第45巻の表紙
 その内容の一部(ハイレゾに対抗した文言が右上にある)
ちなみに、このプレイヤーシステムは378万円です。



 
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